「ジャンボ」の愛称で親しまれた米ボーイング747が、製造中止に追い込まれる可能性が出た。ボーイングが7月にSEC(米国証券取引委員会)へ提出した資料で、「今後受注が見込めない場合、製造中止を検討する」と言及したのだ。
「ジャンボ」の愛称で親しまれた747。日本の空港で見かける機会も減ってきた(撮影:吉川 忠行、ほかも同じ)
ジャンボのエンジンは4基だが、現在航空会社が長距離国際線の主力に据えているボーイング777-300ERは2基。最近は一服感のある原油価格だが、いつ急騰するかは、分からない。
全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)も含め、世界の主要航空会社は、ジャンボの後継に777を導入しており、不具合の少なさも含めて、世代交代に成功した。それ故、あえてエンジンが4基ある「4発機」のジャンボを、積極的に導入する理由はない。
欧州のエアバスが製造する総2階建ての超大型機A380も、同じく4発機で曲がり角を迎えている。7月にロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーの期間中、減産がひっそりと発表された。現在は月産3機の生産レートだが、2018年からは月産1機に落とす。
エアバスの総2階建てA380も、生産ペースを落とすと発表
生産を抑えるのは747も同じだ。今年1月には発表時に月産1.3機だったものを、3月から同1機、9月には同0.5機と段階的に減らしていく。
747もA380も、その優雅さに魅了された人は多い。特に日本ではジャンボの人気は根強く、香港のキャセイパシフィック航空が10月に実施するジャンボのラストフライトには、羽田発香港便が選ばれたほど。海外の航空会社からも、日本人はジャンボ好きだと評価されている。
曲がり角を迎えているのは4発機ばかりではない。ボーイング、エアバスとも、既存の小型機や中型機の次世代機を開発しており、新型エンジンの採用や、機体に炭素繊維複合材などを多用することで燃費を改善し、市場に投入しつつある。
1座席当たりの運航コストを下げるため、既存機よりひとまわり大きな機体を中核に据えている。この大型化により、次世代機が存在しない空白地帯とも言える旅客機の市場が生まれてきているのだ。
ジャンボの製造中止がささやかれる今、旅客機の世界では何が起きているのだろうか。
ジャンボの主力は貨物型
旅客機の市場は大別すると2つある。座席数が100席以上の市場と、100席未満の市場だ。後者は三菱航空機が開発中の「MRJ」のような、リージョナル機と呼ばれる分野で、地方と地方を結ぶ比較的距離が短い路線に投入される。
一方、世界2強のボーイングとエアバスが製造しているのは、100席以上の旅客機だ。ボーイングであれば737、エアバスはA320が小型機に分類され、120席から200席程度の席数になる。ボーイング767などの中型機が300席前後、ボーイング777などの大型機が400席から500席となる。
これが787の場合、標準型の787-8であれば300席クラスだが、胴体を6メートル延長した787-9は400席クラスと、従来であれば中型機と大型機で別の機種だったものが、同じシリーズのサイズ違いで作られるようになった。ボーイングでは、さらに胴体を延長した787シリーズ最大の787-10も開発中だ。
大型機を上回るのが超大型機となる747やA380で、A380は4クラスで544席、エコノミークラスだけを並べれば853席にもなる。
747の場合、現在製造されているのは新型エンジンや新設計の主翼を採用した、747-8と呼ばれるモデルだ。旅客型と貨物型があるが、125機の受注のうち貨物型が74機と半数以上を占める。
747-8の前世代にあたり、1988年に初飛行した747-400の場合、旅客型が467機、貨物型が166機、客貨混載型が61機。747-8の総受注125機という数字は、いかに少ないかがわかるだろう。しかも、受注の大半が貨物機だ。
かつては100機以上の747を保有していたJALも、2014年3月に国内最後の旅客型747を退役させたANAも、共に777を後継機として導入。日本の航空会社で747-8を運航しているのは、貨物型を10機発注済みの日本貨物航空(NCA)のみだ。
旅客機ではみかけなくなったジャンボも、貨物機ではまだ活躍している
7月末現在の受注残は、旅客型と貨物型各10機ずつの20機。ファンボロー航空ショー期間中に、ロシアのヴォルガ・ドニエプルグループが貨物型を20機追加受注する意向を表明し、3カ月ぶりの受注を獲得できる見通しが立った。また、米空軍が2015年1月28日に、次期大統領専用機として747-8をベースにした機体を導入すると発表している。
冒頭で述べたように、ボーイングは747の生産レートを9月から月産0.5機に落とす。このまま受注が獲得できない場合、6年程度で受注残を消化してしまうことになる。
なぜここまで受注が落ち込んだかと言えば、エンジンが4基という燃費の問題だけではない。乗客が多頻度運航を好むようになった今、これまでのような一度に大量輸送する機材の必要性が低下したからだ。さらにジャンボの場合、現在の主力が貨物型なので、航空貨物の需要落ち込みも減産要因になっている。
対するA380は、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングスが、2019年から首都圏とホノルルを結ぶ路線に3機投入する。不振が続くA380にとっては、久々の受注となったが、それでA380の販売が好転したわけではない。
エアバスでは今年1月に2015年の納入実績を発表した際、A380は機体として損益分岐点を越えたとしている。現在18社から319機受注しており、このうち半数近い142機をエミレーツ航空が発注している。
仮に現在の受注残126機を、2015年の納入機数である27機で毎年引き渡した場合、約4年半で完納してしまう。月産1機のペースで毎年12機ずつ引き渡せば、約10年製造ラインを維持できることになる。
トランプ氏の愛機も後継機はない
超大型機の減産が大きく取り上げることに対し、海外の航空業界で2015年あたりから話題となっているのが、小型機から中型機の間を埋める機種の後継機だ。
ボーイングには、日本企業も参画する中型機767と同時開発された、757という機体がある。客室の通路が2本ある767に対し、757は1本。日本の航空会社は購入しなかったが、デルタ航空が成田空港からグアムなどのリゾート路線を中心に運航しており、日本でも見かける。
また、米共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏のプライベートジェット機「トランプ・フォース・ワン」も757だ。
メーカーが定める座席数は、標準型の757-200が2クラス仕様で約200席、胴体を延長した757-300が約250席。しかし、この座席数の機体で、手ごろな後継機があまり存在しない。
ボーイングのラインナップを見ると、新型エンジンを採用した小型機737の最新型737 MAXシリーズで胴体が最大の「737 MAX 9」は、2クラス178席。1クラス仕様にすれば最大220席になる。しかし、250席の機体となると、787でもっとも小さい787-8になってしまう。
短中距離路線に投入されることが多い757と比べ、787は航続距離が長くオーバースペックであり、価格も高価だ。そこでライバルのエアバスは、757-200の後継機市場に狙いを定め、小型機A320neoシリーズで最大のA321neoを改良し、「A321LR」という機種を開発している。航続距離は757-200を上回るが、座席数は同程度。しかし、250席前後の757-300は、手ごろな後継機が存在しない。
ボーイングも757のサイズ、自社のラインナップで空白地帯になっているのは当然把握している。しかし、新機種を開発するほどの市場はなく、A321LRに対抗する「737 MAX 10」という、737 MAX 9の胴体を延長したタイプを開発するのではと噂されている。
ボーイングは今後の航空需要の成長から、200席から250席の機体は737で補うか、現状より乗客数の増加が見込まれる航空会社には、787を販売する考えだ。
実際、日本の航空会社には中型機767の後継機として、787以外の選択肢に「737 MAX 200を提案している」とボーイングの幹部は話す。ANAは767の後継として787を選択したが、航続距離が短い国内線のように、オーバースペックとなる用途もあるからだ。
しかし、737 MAX 200は737 MAXシリーズのLCCバージョンで、中型機並みの1クラス200席。座席数はぴったりはまっても、フルサービス航空会社が座席を詰め込むだけ詰め込んだLCC市場向けの機体を、果たして選択するだろうか。対抗馬を用意したエアバスと異なり、ボーイングは最適解を持ち合わせていないことが伺える。
現在の航空機市場で、大きな存在感を出しているのは中東勢だ。特に大型機については、A380を大量発注したエミレーツ航空のように、運航コストを下げるため、座席数の多い機材を選択する傾向がある。このため、ボーイングの777の後継となる「777X」も、従来機より大型化している。
ジャンボやA380が苦境を迎え、手ごろな価格の中型機が事実上不在となっている現在の航空機市場。ボーイングは737 MAX 10を開発するかを年内にも決断すると言われている。正念場を迎えた超大型機に替わり、これまでと違ったコンセプトの機体が登場するかもしれない。
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