「もてなす」場所を持たない日本企業

 「航空機ビジネスは、私が前にいた重電機業界と比べて、より人間関係が生きてくる」

 三菱航空機の森本浩通社長は、業界の雰囲気をこう表現する。航空業界というとオープンなイメージを持つ人もいるかもしれないが、記者がファンボローやパリの航空ショーに訪れた印象で言えば、人と人とのつながりが大きくものを言う泥臭い業界だ。

 航空機メーカーや有力サプライヤーは、「シャレー(山小屋)」と呼ばれる建物を構え、ここに航空会社やリース会社などの担当者を招待して、ワインを片手に料理を楽しみながら商談を進める。もっとも、商談は航空ショーの前から行われており、ショーは関係を深める社交の場という意味合いも併せ持つ。世界中の航空会社のトップが集まるIATA(国際航空運送協会)の年次総会も、同じような雰囲気だ。

エアバスのシャレーは広くて豪華だ
エアバスのシャレーは広くて豪華だ
三菱航空機は、MRJのシャレーを用意していた
三菱航空機は、MRJのシャレーを用意していた

 社交のツールとも言えるシャレーだが、ファンボローでこれを構えていた日本勢は、三菱航空機のほかに、工作機械メーカーの牧野フライス製作所など数えるほど。重工各社は広大な展示ホールの一角に、共同でブースを設けているだけだ。

 会場の様子を見た海外の航空機関係者は、「日本の重工メーカーは、なぜシャレーを出さないのか。これでは商談する気がないと受け取られる」と不思議がる。

 確かに日本の重工メーカーの場合、すでにボーイング向けの仕事で相応の売り上げが見込めることや、生産体制の制約から劇的にビジネスを拡大できないという事情がある。だが部品を手掛けるサプライヤーとしてのビジネスのみならず、川崎重工の輸送機C-2や、新明和工業の救難飛行艇US-2など、海外から引き合いのある完成機ビジネスがすでに存在している。防衛省や防衛装備庁も、こうした機体の輸出を視野に入れた検討を進めており、決して後ろ向きなわけではない。

 ファンボロー航空ショーには、39カ国から約1500社が出展し、5日間のトレードデーだけで約10万人が来場する。海外の企業は取材する報道関係者に対し、会期前からさまざまな案内を積極的に送ってくる。しかし、日本勢にそうした動きは見られない。

数々の航空機が姿を見せて、性能のよさなどをアピールする。だが日本勢はそっけない
数々の航空機が姿を見せて、性能のよさなどをアピールする。だが日本勢はそっけない
目の前を総2階建てのA380が行き来する様子は圧巻だ
目の前を総2階建てのA380が行き来する様子は圧巻だ

 政府関係者や経営陣たちは、ブースが並ぶ展示ホールを歩き回ることはほとんどなく、広い会場内をバギーで移動している。仮に商談をまとめる気がないにせよ、要人をもてなす施設がないという状態を、考え直す時期なのではないだろうか。

 果たして日本の企業や政府は、本気で航空機産業を成長させる意志があるのか。記者は強く疑問を抱いた。

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