分水嶺となる米国試験

 5月9日、MRJを製造する三菱重工業は、事業計画の進捗状況を公表した。巨額の損失を生んだ大型クルーズ船をはじめ、事業ごとに触れられ、MRJについても量産体制が整いつつあるとされた。

 開発体制の強化や米国での飛行試験スケジュール、財務計画が示されたが、いずれも既出のもので、目玉となるものはなかった。

 米国での飛行試験については、機体を現地へ運ぶ時期を夏ごろとした。三菱航空機が2015年12月に発表した計画では、飛行試験を実施する米ワシントン州モーゼスレイクへ、今年10~12月期にフェリー(回送)するとしていた。これは当初、4~6月期としていたものを後ろ倒ししたものだ。これが今回の発表では、夏ごろに前倒しになった。

 もっとも、2015年11月の初飛行より前に示された計画でも、機体を米国へ持ち込む時期は今年夏から秋ごろとしていたので、大きく変わったわけではない。

 一方、日本国内での飛行試験は遅れ気味だ。大手航空会社幹部からは、「本当に夏までに米国へフェリー出来るのか」と懐疑的な声が聞かれる。三菱航空機が拠点とする名古屋から米国まで、自力で飛ばなければならないからだ。

 米国へは複数の都市を経由するフライトになるが、途中で不測の事態が起きれば、セールスに悪影響を及ぼしかねない。その意味では、国内での試験飛行とは比べものにならない万全さが求められる。

 MRJの量産初号機が、ANAホールディングスへ引き渡される時期は、2018年4月から9月ごろの予定。4回の延期により、ANA側はMRJへの置き換えを想定している、老朽化したボーイング737-500型機(1クラス126席)の退役を遅らせてしのいでいる。

 これ以上の納入遅延が発生するか否かは、スケジュール通りに米国へ試験機を運び込めるかに掛かっていると言えるだろう。

「売ってやる」「作ってやる」体質

 飛行試験を本格化出来るかの分かれ目に差し掛かっているMRJ。今後のセールスや納入後のサポートについて、気がかりな点がある。

 「売り込み方やサポート体制のプレゼンテーションをはじめ、エンブラエルは良い意味で抜け目がない」と、大手航空会社の幹部はエンブラエルを高く評価する。裏を返せばMRJの売り込みは、リージョナルジェット機のシェアナンバーワンであるエンブラエルの後塵を拝しているということだ。

 こうしたセールス面での経験の浅さは、先行する企業との差に直結しやすいので致し方ない面でもある。

 私が最も懸念するのは、「売ってやる」「作ってやる」という三菱重工の体質だ。同社の若手社員からは「体質を改めない限り、世界と戦えない」と、現状を危惧する声が漏れ聞こえてくる。

 機体製造に関する契約や航空会社との交渉で、こうした体質が見え隠れすると、複数の関係者が異口同音に指摘する。「どちらが客なのかわからない」と、あきれ顔の関係者もいるほどだ。

 かつてこの連載では、MRJの開発が遅延する要因として、マネジメント能力の不足や社内にはびこる学閥主義を挙げた。社内外で相手との関係が良好でなければ、例え優れた技術を持っていても、ビジネスは成功しない。

 7月には英国でファンボロー航空ショーが開かれる。世界最大規模となるこの航空ショーでは毎回、機体メーカーから大型受注が発表される。前回2014年は、MRJも受注を獲得した。

 ショーでの発表は形式的なものとなることが多く、交渉は開催前におおかた成立している。今回のファンボロー航空ショーでも、MRJの受注を期待したいが、企業体質の改善こそが急務なのではないか。ライバルとの受注競争では、こうした心証も大事ではないだろうか。

 航空機は売った後のサポート体制がものをいう。日本企業ならではの対応で、世界ナンバーワンの座に登りつめてほしいものだ。