バニラと合併、「ピーチはうれしくない」

 ピーチの子会社化によって、ANAHDの100%子会社であるバニラとの関係は、どのように変わるのか。そしてピーチ側、バニラ側、それぞれの現場社員は、今回のピーチ子会社化をどう見ているのか。

 「独自性がなくなれば、優秀な人間はすぐ転職してしまう」と懸念するのはピーチの幹部。確かにピーチは、独自の戦略で利用者のニーズに合ったLCCブランドを築き上げてきた。実際、ピーチは航空分野以外から転職してきた人材が多い。異業種から転じた社員の中には、「ピーチだから入ったのであって、ANAの色が強くなって、普通の航空会社なるようならば辞める」と語る社員もいる。

 だがANAHD側の視点で見ると、狭い日本を舞台に、傘下に2つのLCC子会社を保有する意味はあまりない。中長期的には、ピーチとバニラの統合こそが合理的な経営判断とも言えるだろう。

 だが、現場の感情は、そんなに簡単ではない。ANA側にとってみれば、思い通りにならないピーチは、これまでも歯がゆい存在だった。ゆえに「アンチ・ピーチ」を明言してきた役員も存在する。一方のピーチ側の幹部も、「バニラを潰すくらいの気構えでやってきたのに、明日から一緒にやれと言われても、簡単には受け入れられない」と拒絶反応を示す。

 バニラ側も、ANAHDからは「ピーチの成功を見習え」「ピーチを超えるLCCになれ」などと発破をかけられて苦戦してきた歴史がある。100%子会社なので、バニラはピーチと比べものにならないほどANAHDの影響を受けてきた。それゆえに、「うちとくっついても、ピーチはうれしくないだろう」と中堅社員は語る。実際、ANAHDがピーチを子会社化すると発表した直後、「ゆくゆくはバニラとピーチを統合する布石かという反応が多かった。いつかそうなるとは感じていたので、冷めた見方の社員が多かった」(同社員)とも語る。

 バニラでは現在、プロパー社員が約半分を占める。そのうち、エアアジア・ジャパンの時代を知る人は、半分を切り始めた。就航から4年が過ぎて会社が大きくなるとともに、ANAからの出向者も増えている。

 バニラの社内では、「この人は(LCCの文化で働くには)違うだろう、という人が昨年春くらいから増え始めた」という不満も漏れ伝わってくる。LCC独特のオペレーションなどを理解していない上司に説明をしたり、それによる間違った判断を正したりすることに、時間が割かれているのだという。「こういうことが続くと、社員の士気が落ちてしまう」と、バニラの先行きを不安視する声も、現場では漏れている。

 筆者が知る限り、バニラが就航した当時は、プロパー社員もANAからの出向者も、エアアジア・ジャパンの失敗を乗り越えて再出発するバニラを何とか成功させようと、力を合わせて奔走していた。だが外野から見ていても、その様子が少しずつ変わってきているのだ。

 4月からANAHDの副会長に就任するANAの篠辺修社長は、「ANAHDが(LCCなどの)事業会社に、これをやれ、あれをやれ、と口を出しても上手くいかないことは分かっている」と語る。繰り返すが、実際にピーチは、ANAHDやANAの影響を受けず、独自の経営スタイルを貫いたことで、熾烈な競争を勝ち抜き、成功を収めたはずだ。

 ある航空会社の幹部は、1990年代の規制緩和を契機に誕生したものの、経営危機に陥った中堅航空会社のスカイマークやエア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーを例に挙げた。これら4社は結局、ANAの支援を受けて経営危機を乗り越え、現在ではスカイマーク以外の3社はコードシェアをはじめとして連携を深めている。「ANAは破綻した航空会社をうまく再生させてきた。だが成功している会社をどう扱うのだろうか」。

 ANAHDがLCC市場でアジアの競争相手に勝つには、それぞれのLCCに、経営の独自性を持たせることが重要になるはずだ。それは予約システムやコードシェアといったサービス面の独自性に限らず、人事や社風についても、LCC側の意思決定を尊重し、口を出さないことが先決であろう。

 なぜなら、ピーチはANAHD側の干渉を受けず、自由に経営して来られたからこそ、この5年間で、利益を生み出す体制を築けたのだから。国内LCC唯一の勝ち組、ピーチが北東アジアのナンバーワンになれるか否かは、この独自性の堅持にかかっている。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。