デルタは「脱日本」?

 ユナイテッド航空は、運休する成田~シンガポール間について、共同事業(JV)を展開するANAの運航便や、加盟する航空連合「スターアライアンス」加盟社の便を利用するように呼びかけている。

 ユナイテッドとは別の理由で「ジャパンパッシング」を進める可能性があるのが、デルタ航空だ。同社は加盟する航空連合「スカイチーム」のパートナーを日本国内に持たない。そのため現在は成田から運航するアジア路線を、将来的には同じスカイチームメンバーの中国東方航空が拠点とする上海の発着便に変更するのではないか、という声も聞こえてくる。

 2月9日から開かれる日米の航空当局による、羽田空港の昼間時間帯発着枠の配分交渉がまとまれば、首都圏需要を羽田へ寄せ、成田は段階的に減らすといった戦略も取れるようになる。経済成長が鈍化したとはいえ、日本よりもはるかに大きな航空市場がある中国を、アジアのメーン拠点に据える選択肢も見えてくるわけだ。

 ただ一方で、デルタはアジアのハブとして、成田に長期にわたって多額の投資を行ってきた。そのため仮に日本を脱することがあれば、雇用問題や、成田の高い整備スキルをどうするかという別の課題にも向き合わなければならなくなってしまう。

 いずれにせよ、米系航空会社がアジア路線を展開するにあたり、日本を素通りする要素が揃いつつあるのは確かだ。

一方、航空機の進化はどうか。

 ユナイテッド航空がサンフランシスコ~シンガポール線に投入するのは、3種類機体サイズがある787の中で、2番目に大きい長胴型の787-9だ。座席数は252席で、ビジネスクラスが48席、エコノミークラスが204席。エコノミーのうち、88席は足もとが広い「エコノミープラス」となっている。

ボーイングの787。席数はさほど多くないが、航続距離が長いのが強みだ(撮影:吉川 忠行)
ボーイングの787。席数はさほど多くないが、航続距離が長いのが強みだ(撮影:吉川 忠行)

 787は乗客数がさほど見込めないものの、航続距離は必要となる路線に投入できる機材。ANAや日本航空(JAL)も、欧米の中規模都市へ新路線を開設する際は、まず787から投入し、市場を育成している。つまり、これまでは高コストで現実的ではなかった路線を開設できるようになった。

 シンガポール航空が北米直行便に投入するA350-900ULRも、同じような開発コンセプトだ。燃料タンクを大きくして航続距離を伸ばし、飛行時間は19時間に達する。一般的なA350-900の座席数は3クラスで325席。上級クラスの席数を増やせば、ユナイテッド航空の787-9と同規模の250席か、それ以下の座席数になるだろう。

全席ビジネスだったシンガポール航空

 かつて、シンガポール航空は全100席がビジネスクラスのA340-500を、シンガポールからニューヨーク(ニューアーク空港)とロサンゼルスの2都市へ、直行便で飛ばしていた。A340は4発機だが、A350は新型エンジンを搭載する双発機となるので、燃費の面でも大幅な改善が見込まれる。

新型エンジンを搭載する双発機のA350。長距離路線などを飛ばすのに向く(撮影:吉川 忠行)
新型エンジンを搭載する双発機のA350。長距離路線などを飛ばすのに向く(撮影:吉川 忠行)

 このA340-500をシンガポール航空は5機保有していた。現在シンガポール航空は67機のA350-900を発注しており、このうち7機が超長距離型のA350-900ULRになる。A340よりも機数を増やすということは、以前よりも超長距離路線に関心を持っているということだろう。

 運航スケジュールを見ると、深夜便を軸とした飛ばし方になっている。

 ユナイテッド航空の場合、シンガポール行きUA1便は、サンフランシスコを午後11時25分に出発し、翌々日の午前6時45分に到着する。飛行時間は16時間20分。サンフランシスコ行きUA2便は、シンガポールを午前8時45分に出発し、同日午前9時15分に到着する。飛行時間は偏西風によりやや短い15時間30分となる。いずれも現地の朝に到着するのだ。

 寝ていれば超長距離のフライトも、さほど苦ではないかもしれない。かつてシンガポール航空がA340を全席ビジネスクラスにした背景には、さほど多くの需要が見込めなくても、オールビジネスクラスであれば十分な収益を確保できるという判断があったのだろう。加えて、超長距離となれば快適性は並みの国際線以上に求められる。エコノミークラスでは16時間のフライトに耐え難いと考えたのかもしれない。

 アジアと北米を結ぶ路線は、直行便が増えることで次のステージへ移る。

 もちろん、ハブ空港で幹線を結び、そこから枝葉のように目的地へつなげる「ハブ&スポーク」の戦略に比べれば、目的地同士を直行便で結ぶ「ポイント・トゥー・ポイント」のネットワークでは、自ずと乗客数が限られてしまう。ポイント・トゥー・ポイントでも収益を確保するには、やはりビジネス需要を軸に据えるべきで、どうしても航空運賃の単価は高くなるはずだ。

 利便性を考えれば、当然直行便の方が有利。けれどエコノミークラスを利用する観光などの需要に焦点を当てれば、まだまだ、日本での乗り継ぎ需要は取り込めるはずだ。直行便という手軽さよりも、運賃の安さを選ぶ人も多いだろう。「利用者の利便性に尽きる。需要とのバランス」とANAの篠辺社長は語る。

 アジアと北米を結ぶ巨大な航空マーケット。「ジャパンパッシング」が加速しないよう、日本の航空会社と空港は危機感を持ってサービスを磨かなくてはならない。