国際定期便もない福岡空港が健闘したJAL

 JALには国内外合わせて約5000人の地上係員が在籍する。2016年11月14日の最終予選には、国内外59人が出場し、12人が翌15日の本選に進出した。第3回からスタートした海外部門には、金浦のほかにも、ロサンゼルスやヘルシンキなど10空港が参加した。

 コンテストは毎回、訓練を担当する教官たちが中心となり、少しずつ内容を変えて実施している。メーンとなる国内部門については、これまで独立していたアナウンス審査と、チェックインカウンターでの実技審査を結びつけた。

 悪天候など、イレギュラー運航の案内を受けて、カウンター前には乗客役の教官が並ぶ。1人目は「大事な商談に間に合わない」と駆け込んでくる外国人ビジネスマン、困っていた1人目の利用客をカウンターに案内してきた2人目の女性、赤ちゃん連れの母親、足首をねんざして車イスを利用する夫を連れた妻と、さまざまな利用客を応対しなければならない。

 多くの日本人にとって苦手意識のある英語で、いきなりまくし立てられて、カウンター実技が始まる。ひとたびイレギュラー運航が発生すれば、チェックインカウンターは大混雑する。その中で、ひとり一人の要望に応じていかなければならない。1人目を外国人客にしたのは、時間に制約のあるコンテストで、こうした緊張感を一気に作り出す狙いがあったのだろう。

 外国人客をカウンターに案内した女性客をはじめ、列をなす利用客は皆、何らかのケアが必要な人たちだ。特に外国人客相手に代替手段を提案していると、日本人相手よりも時間が掛かってしまいがちだ。並んで待つ人たちにも配慮できているかも、重要な審査項目になっていた。

 コンテストが5回目ともなると、優勝経験者も運営スタッフに参加している。JALでは自分が務める空港で業務しながら、羽田で後進の指導にもあたる「兼務教官」という職種がある。定められた教官の任期中、業務の一つとしてコンテスト運営にも携わっているのだ。

 第2回大会で優勝した福岡空港の片山佳恵さんは、今年度のコンテストが開かれた2016年11月まで兼務教官を務めていた。これまでは出場者の審査に参加していたが、今回は最終予選で利用客役としてカウンターを訪れ、ほかの教官たちと応対を評価。利用客役の主観的な評価に偏らないようにするためだ。

 一方で、片山さんは、自身が務める福岡空港でも、本選に挑む代表者の育成に力を注いでいた。2015年度の第4回大会では、片山さんの愛弟子である後輩の田島由佳里さんが優勝。田島さんは片山さんの後任として、11月からは兼務教官に選ばれている。

 福岡で代表選考会を取材した際、「羽田には負けたくないです」と本音を漏らした片山さん。惜しくも2連覇は逃したが、2016年に入社したパイロット訓練生で、現在は福岡で新入社員としての実務経験を積んでいる野村翼さんが準優勝に輝いた。

 優勝した町野さんは関西空港に勤務していたが、2010年10月に羽田が再国際化した際、各地の仲間とともに羽田に異動した。コンテストの出場については、所属するチームから推薦されたが気持ちが固まらず、何度も断った経緯がある。

外国人客を出迎える羽田空港勤務の町野さん

 羽田の代表に選ばれた後、町野さんは教官から「人間らしい接客を」と何度も指摘されたという。「人間らしさって何だろうと休みの日も悩みました」と振り返る町野さん。実際、業務の中では忙しい時につい、機械的な応対になってしまうことがあったという。

 最終的に、教官からは「素で行きなさい」とアドバイスを受け、自分の目指す接客を心掛けたことで、優勝の果実をもぎ取った。

 海外部門で優勝したキムさんは、鹿児島の大学を卒業。トラブルを抱え、不安な表情でカウンターに駆け込んだ乗客役を応対する際には、時折ジョークを挟みながら流ちょうな日本語で安心させようとしていた。

 実はキムさんも上司から推薦されながらも、出場を断り続けていた。「私は45歳ですが、多くの出場者たちは2010年前後の入社。この歳で出場して良いのかという迷いがありました」と悩んだ経緯を話す。

 金浦空港は、第3回大会でも優勝者を輩出。キムさんは「金浦空港が海外のトップステーションとしてさらに飛躍するよう、リーダーシップを発揮していきたいです」と決意を新たにしており、金浦が海外部門で常勝の座につきそうだ。

海外部門で優勝したソウル金浦空港のキムさん(写真内左)
車イスに乗った乗客に対応するキムさん。目線を合わせるよう、きちんと腰をかがめていたのが印象的だった

 今回国内部門で優勝した羽田は、JALの中でも、最も多くの地上係員が働く空港だ。国内線700人、国際線560人の1260人が、シフトを組んで利用客を出迎えている。

 これに対し、福岡は基幹空港の一つとはいえ、340人と人員の規模は約4分の1に留まる。それも現在は、自社の国際線定期便が飛んでいない空港だ。そうした中で、接客スキルを代々受け継ぎ、サービスレベルの向上に励んでいる。

 コンテストという節目を設けることで、地上係員ひとり一人が自らの接客を見直し、出場者はその経験を同僚や後輩たちに伝承していく効果が現われている。