ふるさと納税は、地方の「創意工夫」の一つ
もちろん、過度の返礼品競争には批判もある。返礼品につられて寄付をするのは、本来の寄付ではないから税金の控除対象にするのはおかしいという識者もいる。一部の自治体が高額の返礼品を出してごっそり寄付を持って行ってしまうので、自分の自治体には寄付が来ない、という自治体の声も聞かれる。東京都など税金が「流出」する一方の自治体は、そもそもふるさと納税制度に反対している。
だが、この制度によって、自治体が大きく変わったのも事実だ。これまで自治体が収入を増やそうと思えば、中央から降って来る地方交付税交付金を増やしてもらえるよう、総務省の言うことを聞くのがせいぜいだった。あるいは、国が設けた補助金や助成金を獲得するために、地元選出の国会議員や総務省に陳情して歩くぐらいしかできなかったのだ。
それが、ふるさと納税制度ができて、自分たちの魅力をアピールすることで、税収(寄付)を増やすことができる道ができたのである。地元の特産品をアピールしたり、観光地としての魅力をアピールするために、「返礼品」をそろえ、納税者の心をくすぐった。泉佐野市がネットショップ張りのふるさと納税サイトを作り、ポイント制度などを導入して人気を博したのも、そんな創意工夫の一つだった。実際の地域からの税収を、ふるさと納税が上回るケースも相次いでいる。
もう一つ、自治体の首長や職員にとって大きなメリットがある。予算は議会の承認を得なければ一銭も支出できない。自治体が産業振興目的で助成金などを出そうとした場合、議会が同意しなければ何もできない。
ところが、ふるさと納税は使途を明示するなどして「寄付」を募ることが可能なので、首長や職員がやりたかったことを世の中に問いかけ、それを実現することができるのだ。首長や職員にとっては、自分たちの創意工夫を発揮するチャンスができたのである。
議会の「意思」による予算配分は必ずしも住民のニーズに沿っているとは限らない。政治力のある議員の声が政策に反映されるのが普通だ。ところが、ふるさと納税にひもづけされた事業ならば、納税者(寄付者)の意思がきちんと反映される。ふるさと納税は非常に「民主的な」仕組みとも言えるのだ。
さらに重要な事がある。ふるさと納税は、納税(寄付)する側の意識を変えることにも成功しつつあるのだ。最初は返礼品が目当てで寄付をしたものが、出会った自治体への共感が生まれ、ファンになっていく。最終的には返礼品だけが狙いではなくなっていくケースが増えているのだ。
また、自治体の中には、返礼品を出さないでプロジェクトに賛同してくれる人たちに呼び掛ける「ガバメントクラウドファンディング」も広がっている。これは行政の事業に「共感」した納税者が資金提供するわけで、自分の税金の一部を自分の意思に合った事業に回す、税金使途の明示に当たる。まさに、民主主義を実現する一歩、ともいえるわけだ。
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