東芝は「守秘義務」を解除すべきだ

 あたかも、監査法人よりも自主規制法人の調査の方が優れている、と言いたげだ。手記でも「(東芝から)二度にわたり提出された確認書は、計3万数千ページに及ぶ膨大なもの。これらを精査して、事実関係に齟齬がないかチェックしました」と胸を張る。いかにも大変な作業をしたと言いたいようだが、3万ページを佐藤氏がいう10人のメンバーで2年かけて読んだとして、単純平均すれば1日4ページだ。そんなに胸を張れるほどのチェックなのか。

 おそらく佐藤氏が監査法人を批判するのは、自主規制法人の体制が優れているからではないだろう。佐藤氏は元金融庁長官である。金融庁などの行政機関が最終的に決算書が正しいかどうかを判断すべきだと考えているのではないか。20年以上前の「行政指導」全盛期のノスタルジーがあるのだろうか。

 現在の監査法人の体制が万全であるとはもちろん言えない。だからと言って、監査制度を全否定するような発言を、金融庁の元トップがするのはいかがなものか。この点は、今後、監査制度を研究する学者や公認会計士から異論・反論が出てくるに違いない。

 手記では佐藤氏はPwCあらたの対応を強く批判している。有価証券報告書などに付した監査意見について「監査法人の側から明快かつ十分な説明がないことです。型通りの記述の域を出ない監査意見の書面からも、説明責任を果たそうという意欲は伝わってきません」というのだ。

 監査法人に守秘義務を課しているのも、紋切り型の監査報告書を定めているのも金融庁だ。監査報告書についてはもう少し説明を増やす長文化の議論が金融庁の審議会で始まっている。

 佐藤氏は「契約相手方である企業が、守秘義務を限定的に解除すれば、世間に対して、投資家に対して、もっと説明することは可能なのではないでしょうか」ともいう。これには大賛成だが、東芝は守秘義務を解除しないだろう。PwCあらたの前に監査をしていた新日本監査法人は東芝の不正会計と監査について内部で詳しい検証報告書を作っているが、一切、明らかにしていない。理由は「公表すれば東芝から訴えられます」という法律事務所のアドバイスだという。是非とも、東芝の現経営陣は両監査法人の守秘義務を解除して、真実を明らかにしてほしいものだ。

 実は、今回の決定に当たって開かれた自主規制法人の理事会は、満場一致ではなかった。手記で佐藤氏が明らかにしているが、7人の理事のうち、1人が特注指定解除に反対した。「全会一致のケースがほとんどである理事会では、極めて稀なことでした」としている。

 7人の理事は佐藤理事長のほか、東証の上場審査担当ら内部の理事3人に、日本公認会計士協会の会長を務めた会計士の増田宏一氏、京都大学教授を務めた川北英隆氏、そして久保利氏の後任として6月に加わった石黒徹氏の外部理事3人で構成される。