実は、この日の特区諮問会議には、民間有識者議員5人の連名で「追加の規制改革事項などについて」とする文書が提出されていた。その中で、「度重なる議論にも関わらず、進捗が芳しくないものとなっている」と苦言が呈されていたのだ。

 中でも農業分野の外国人材の受け入れに関しては以下のように述べて、早急に結論を出すよう求めた。

 「本件(農業分野の外国人材の受け入れ)は、『日本再興戦略2016』(平成28年6月2日閣議決定)等において『可能な限り早期に結論を得る』とされているにも関わらず、法務省の担当者ほかは、『引き続き検討中』である旨を繰り返すのみで、議論の入口にすら入れていない状況である。本件は、本日の秋田県大潟村のみならず、長崎県や茨城県などの多くの自治体からも同旨の要望が寄せられており、技能実習制度で対応できない一定レベル(技能実習を修了したレベル)の外国人材の受入れが喫緊の課題となっていることから、事務方ハイレベルないし、必要あれば政務折衝により、早期に問題解決を図る必要がある」

 政府がこれまで採ってきた外国人受け入れ政策は、いわゆる単純労働者は基本的に受け入れないというものだった。これは日本人の雇用の場を奪うことにつながるため、というのが最大の理由だった。一方で、誰でもできる単純労働はダメだが、専門能力を持った外国人は良いということで、日本国内で働ける道が開かれている。

行政の動きの「鈍さ」にいら立つ

 ところが、現実には、これまで単純労働とされてきた職種ほど、人手不足が深刻化している。日本人の若者が就きたがらないことが人手不足に拍車をかけている。建設や介護分野などが典型だが、農業でもそれが鮮明になっている。

 大潟村が諮問会議に出した提案は、単純労働者がダメなら、よりレベルの高い農業に習熟した外国人を「専門能力を持った外国人」の枠内に入れてくれ、というものだ。ところが、入国管理行政を管轄する法務省は、そうした農業労働者にまで働き手として入国を認めると、それが「蟻の一穴」になりかねないと考えているのだろう。これまでの方針の転換になかなか踏み切ろうとしない。そんな行政の対応に、特区諮問会議の民間人議員たちが怒ったわけだ。

 ちなみに特区諮問会議は議長の安倍首相のほか、麻生太郎・副総理兼財務相、山本幸三・地方創生担当兼規制改革相、菅義偉官房長官、石原伸晃・経済再生担当相の閣僚と、民間の有識者議員5人の合計10人で構成する。民間議員はボストンコンサルティンググループの秋池玲子氏、コマツ相談役の坂根正弘氏、東京大学大学院教授の坂村健氏、東洋大学教授の竹中平蔵氏、大阪大学招聘教授の八田達夫氏である。メンバーの大半がいわゆる改革派で、特区を使った規制緩和に前向きな人たちである。それだけに、行政の動きの「鈍さ」にいら立っているわけだ。

特区は構造改革の「突破口」

 国家戦略特区はアベノミクスの3本目の矢である構造改革の「突破口」となってきた。アベノミクスの3本目の矢は不発だとして批判も根強いが、特区で実現した規制改革は数多い。すでに東京圏、関西圏、愛知県、福岡市・北九州市などの「大都会」に加え、兵庫県養父市や新潟市、仙北市など「地方」も国家戦略特区に指定されている。現在は10地域だが、今後も指定地域を拡大していく見込み。

 農業分野では、養父市で株式会社による農地取得が認められ、アルバム最大手のナカバヤシと住宅リフォーム業の山陽アムナック(兵庫県三木市)が農地購入に向けて詰めの交渉を行っている。

次ページ 小池百合子東京都知事は、特区活用に積極的