次の焦点は臨時国会での補正予算編成

 経済再生担当も茂木敏充氏、経済産業相も世耕弘成氏が留任。重要だから変えないというスタンスは理解できるが、「アベノミクス第3ステージ」を打ち出して市場にインパクトを与えるには新鮮味に乏しい。むしろ、アベノミクスを引っ張る経済分野にインパクトの強い人材の投入が必要だったのではないか。

 これまで安倍首相は内閣を改造しても大幅な入れ替えは行わずに来た。政策の継続性を重視することを党内人事よりも優先したからだ。党内には入閣待機組が60人以上にまで増え、不満が渦巻いたが、短期間で交代させることは極力避けた。外務大臣など外交や通商交渉にかかわる大臣を安定的に長期間留任させたことは、非常に大きな意味があった。

 今回の内閣改造をみると、経済や社会保障などへの安倍首相のこだわりが薄れているように感じる。アベノミクスについてはこれまでの政策を続けていれば問題ないと思っているのだろう。一方で、問題山積の社会保障問題に根本匠・新厚労相がどれだけ切り込めるか。

 不祥事が相次いでいる文部科学省を束ねるのは柴山昌彦大臣。文教族ではなく文科大臣としての力量は未知数だが、安倍首相の信頼は厚く、安倍首相の「教育観」などが強く反映されることになるかもしれない。

 左派系野党からは、今回の改造は、安倍首相による「改憲シフト」だとする見方も強くある。もはや安倍首相が「やりたい事」は憲法改正だけに絞られたというのがこうした意見の背景にある分析だ。

 党内でも意見の分かれる憲法改正案を早い段階で国会に出し、両院で発議をして国民投票にもっていくには、まずは、党内を強力に束ねる必要がある。つまり、他の政策を実現させるための強力な布陣というよりも、党内に不満が残らないで安倍首相に従う勢力を保つための論功行賞人事に終始した、というわけである。

 だが、足元の経済は不安定だ。安倍首相がアベノミクスによる経済対策はこれまでのもので十分だと考えた場合、目先、景気が失速する可能性がある。臨時国会では補正予算が編成されるが、これが効果のあるものになるかどうか。また、株式市場や為替市場にプラスの衝撃を与える政策を追加で出すことができるかどうか。

 夏前から続く災害によって、それでなくても弱い消費が大きく落ち込んでいる。日本百貨店協会がまとめている全国百貨店売上高は、7月に続いて8月も前年同月比マイナスになった。北海道胆振東部地震や相次ぐ台風が襲った9月も減収になった可能性が大きい。補正予算が組まれ、災害復旧への投資が進めば、中期的には景気にプラスになってくる可能性もあるが、時間がかかる。

 安倍首相がアベノミクスの強化に関心を失っているとすれば、それが景気失速につながることになりかねない。景気が失速して、来年春の統一地方選挙や参議院議員選挙を前に、有権者の景況感が大きく悪化するようなことになれば、選挙結果は安倍首相にとって厳しいものになりかねない。

 内閣改造から感じられる経済への「消極姿勢」が、安倍首相の本心ではないことを祈りたい。

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