残された最大の課題「北方領土」

 さらに、ここへ来て、安倍首相は、もうひとつの大きな「戦後レジーム」を終結させようとしている。日露関係だ。

 日本とロシアは、旧ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)時代の1956年に、戦争状態の終了、外交関係の回復等を定めた「日ソ共同宣言」に署名した。日ソ間に残された「北方領土問題」で意見の一致をみることができず、平和条約を結ぶことができなかったためである。

 その段階で、平和条約締結交渉の継続に同意、北方4島のうち、歯舞群島と色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡すことで同意した。その後、「冷戦」体制の崩壊やソ連の消滅などで、交渉が前進するかに見えた時期はあったが、いまだに平和条約は結べていない。まさしく戦後体制最大の残された課題なのである。これに安倍首相は決着を付ける姿勢を明確に打ち出している。

 ウラジオストクで9月3日に開かれた「東方経済フォーラム」全体会合での安倍首相のスピーチは熱のこもったものだった。官邸のホームページで聞くことができる。

「異常な事態」への終止符を呼びかけ

 演説の終盤で安倍首相はそれまでの「プーチン大統領」という呼び方をファーストネームの「ウラジーミル」に変え、こう呼びかけた。

 「ウラジーミル、あなたと私には、この先、大きな課題が待ち受けています。限りない可能性を秘めているはずの、重要な隣国同士であるロシアと日本が、今日に至るまで平和条約を締結していないのは、異常な事態だと言わざるを得ません。

  私たちは、それぞれの歴史に対する立場、おのおのの国民世論、そして愛国心を背負って、この場に立っています。日本の指導者として、私は日本の立場の正しさを確信し、ウラジーミル、あなたはロシアの指導者として、ロシアの立場の正しさを確信しています。

  しかしこのままでは、あと何十年も、同じ議論を続けることになってしまいます。それを放置していては、私も、あなたも、未来の世代に対してより良い可能性を残してやることはできません。

  ウラジーミル、私たちの世代が、勇気を持って、責任を果たしていこうではありませんか。あらゆる困難を乗り越えて、日本とロシア、2つの国がその可能性を大きく開花させる世界を、次の世代の若い人たちに残していこうではありませんか。この70年続いた異常な事態に終止符を打ち、次の70年の、日露の新たな時代を、共に切り開いていこうではありませんか。」

故郷にプーチン大統領を招待、「安倍首相は本気だ」

 北方領土を巡る結論の出ない交渉に終止符を打ち、平和条約を結ぼうと呼びかけたのである。外務省の幹部も「安倍首相は本気だ」と語る。

 安倍首相は故郷である山口県に、プーチン大統領を招待した。12月15日に首脳会議が行われる。ここで日露平和条約の締結で基本合意する──。もしそれが実現できれば、日露間の「戦後」は終わる。

 もちろん、交渉はそう簡単ではない。だが、プーチン大統領が相当前向きであることは間違いない。安倍首相は前回、ロシアのソチでプーチン大統領に会った際、経済協力できる8分野について提案した。その1番目に掲げたのが、「最先端の医療施設を整備して、ロシア国民の健康寿命を伸ばす」という提案だ。

 実は、ロシアは深刻な人口減少に直面している。安倍首相の演説でも、こんな一節が出てくる。

 「今度の旅を準備する過程で、ロシアの人口統計を目にする機会がありました。そして、私は驚かざるを得ませんでした。1976年からの10年間に生まれた男女が2300万人近くに達しているのに、今ちょうど10代の人口となると、1400万人を切っています。96年からの10年に生まれた人たちで、統計はあたかも、90年代後半に、ロシアがくぐった困難を物語っているようであります」