日銀が目標としてきた「2%」の物価上昇の達成メドが立たなくなったことで、「アベノミクスは失敗した」という声が強まっている。日本銀行は7月31日に金融政策決定会合で金融緩和策の修正を決めた。本当に、アベノミクスは「終わった」のか?

日本銀行は7月31日に金融政策決定会合を開き、金融緩和策の修正を決めた。長期金利を「0%程度」としている政策の大枠は維持しつつ、長期金利の上昇を「0.2%程度」まで容認するのが柱で、黒田東彦総裁は「金融緩和の持続性を強化するため」だと狙いを説明している。
背景には日銀が目標としてきた「2%」の物価上昇がなかなか達成できないことがある。2013年に黒田総裁が就任するや否や「異次元緩和」と呼ばれた大胆な金融緩和に踏み出し、マネタリーベースを2倍にして、2年で2%の物価上昇を達成するとした。
ところがデフレ圧力は強く、物価はなかなか上昇しなかった。2%の目標は掲げたまま、達成年限を何度も先送りしてきた。
今回、日銀は、消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)の見通しを、2019年度は4月時点の1.8%から1.5%に、20年度は1.8%から1.6%に引き下げた。この結果、目標の2%には20年度も届かないことがはっきりしたことになる。日銀は今後も長期にわたって金融緩和を継続せざるを得ず、その副作用を緩和するために長期金利の上昇容認に動いたとみられる。
2%の物価安定目標への到達メドが立たなくなったことで、「アベノミクスは失敗した」という声が再び高まりそうだ。デフレからの脱却を掲げた大胆な金融緩和は、日銀による大量の国債購入やETF(上場投資信託)を通じた株式の買い上げにつながり大きく市場を歪めた。マイナス金利によって金融機関の経営も一段と厳しさを増しているだけで、物価は一向に上がらない、というわけだ。
今回、日銀がETFの購入方法などを見直す方針を示したのも、そうした副作用への配慮がある。
では本当にアベノミクスは失敗に終わったのだろうか。
安倍晋三首相は2012年末の第2次安倍内閣発足以降、繰り返し「経済好循環」を掲げている。大規模な金融緩和によって円高が修正され、輸出企業を中心に企業業績が大きく回復、企業がその利益を取引先や従業員に「還元」していくことで、消費が盛り上がり、再び企業収益を押し上げていく。消費が盛り上がれば物価も徐々に上がり始める。そんな「好循環」の構図を描いてきた。
その「好循環」を実現するために、安倍首相は異例の「口先介入」を行ってきた。経済界に対して「賃上げ」を求め続けてきたのだ。自民党の首相がまるで労働組合の肩を持つようなことをしてきたわけだ。結果、5年連続でベースアップが実現した。もちろん、企業業績の好調や深刻な人手不足が背景にあるが、安倍首相の「口先介入」も経団連企業を動かす大きな要因になってきた。
特に2018年の春闘では、安倍首相は「3%の賃上げ」を経済界に求めた。ベースアップや定期昇給だけで「3%」に達した企業は少数だが、ボーナスまで含めた年収ベースでは多くの企業で「3%の賃上げ」が実現した。
好調な企業収益を従業員に分配するところまでは来たが、問題はそれが「消費」に結び付くかどうかだ。日本のGDPの6割は個人消費なので、消費に火がつかなければ景気は本当の意味で回復しない。
2018年1~3月期のGDP(国内総生産)は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.2%減と、9四半期(2年3カ月)ぶりにマイナス成長となった。天候不順による野菜価格高騰の影響などで個人消費が落ち込んだことが響いた。また、企業の設備投資も振るわなかったことがマイナス成長の要因だった。
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