国家資格は一種の「ギルド」

 だが、文部科学省や獣医師会は、国家戦略特区諮問会議が求めた「獣医師は足りている」という論拠について、最後までデータで示せなかった、とされる。ということは、十分なニーズがあることは分かっているが、それを既存の獣医師で独占し続けたいということだったのか。

 あるいは、新規参入が増えると、競争が働いて、質の悪い医師が排除されることになりかねない、という構図を恐れたのか。

 獣医師に限らず国家資格は常に、「ギルド」つまり職業団体の既得権を守る機能を持ち続けてきた。獣医師だけでなく、医師にせよ、弁護士にせよ、公認会計士にせよ、合格者数を増やすとなると、業界団体が徹底的に反対した。資格試験は、その職業に就くための最低ラインというよりも、その資格をとったら必ず食べていけるという一種の生活保障を示していた。

 だが、社会が大きく変化する中で、国家資格が生活保障のままでは、新しい分野に挑戦する「余剰な」資格保持者が生まれない。2000年代に入って司法試験や公認会計士試験の合格者を政策的に大幅に増やしたのは、そうした考え方からだった。

 結果、企業内で働く弁護士が増えるなど、弁護士の仕事の領域は大きく増えたが、一方で競争が激しくなり食べていけなくなる弁護士も生まれた。

 医師や獣医師は、頑なに増員を拒んできた。獣医師だけでなく、医師も十分に足りている、というのが文部科学省や厚生労働省の主張だった。医学部も2017年に38年ぶりに新設が認められたが、これも加計学園同様、国家戦略特区を使ったもので、千葉県成田市に生まれた。医学部も獣医学部同様1校だけの新設が認められたのだが、なぜかこちらは問題視されていない。

 医学部を新設した国際医療福祉大学は長年医学部新設を求め続けてきた大学で、これも政治的なリーダーシップがなければ実現しなかったものだ。

 医学部にせよ、獣医学部にせよ、どんな学部を新設し、どんな人材を育てるかは、本来、大学自身が考えるべきことだろう。ところが日本の場合、すべて文部科学省の許認可に握られている。設置認可どころか、どの学部に何人の学生を受け入れるかという「定員」もすべて文部科学省が決め、それを守るように指導している。それが前川前次官の言う「行政」なのだ。

 「いやあ、うちのような三流大学でも、今年は入学者が増えて、一気に経営が安定しました」と大手新聞社を退職後に大学に再就職した教授は話す。「ひとえに文部科学省のおかげです」というのだ。