規制改革を求める「事業者」が登場するか

 獣医学部の新設に関しては、特区諮問会議のワーキンググループ(WG)が医学部新設とともに早い段階から「岩盤規制」として俎上に載せていた。2014年以降、WGでの議論に登場するが、議事録を読む限り最も熱心だったのは座長の八田達夫・大阪大学名誉教授だ。何せ50年以上も学部新設を許可しない文科省の行政は、岩盤規制そのものだと八田教授は考えたようだ。WGのメンバーは記者会見を開き、今治市選定のプロセスについてこう語った。

 「今回の規制改革は、国家戦略特区のプロセスに則って検討し、実現された。言うまでもなく、この過程で総理から『獣医学部の新設』を特に推進してほしいとの要請は一切なかった」

 規制改革プロセスとしては「一点の曇りもない」と強調したのだ。八田教授は国会での参考人聴取でも同様の発言を繰り返した。また、特区諮問会議の議員に名を連ねた坂根正弘・コマツ相談役も、首相の関与などありえないと発言している。

 それでも野党の批判は執拗に続いた。安倍首相も最後まで選定プロセスには全く関与しておらず、一点の曇りもないと繰り返したが、安倍首相の意向を忖度して加計学園が選ばれ、特区で獣医学部開設を実現できた、という印象が定着した。

 もともと、特区は、首相のリーダーシップによって各省庁が抵抗する「岩盤規制」を突破しようという仕組みだ。もちろん、各省庁の後ろには、既得権を持つ業界団体がいる。獣医学部の新設が50年にわたって実現しなかったのも、「獣医師は余っている」という獣医師会の反対を受けて、文部科学省などが認可しなかったためだ。加計学園は今回の特区申請以前にも、繰り返し獣医学部新設を要望したが、ずっと拒否され続けてきた。

 実は、特区制度で最大の難関は、規制改革を求める「事業者」が手を挙げるかどうか。特区は前述の通り、国と地方自治体、事業者の3者が一体となって規制に挑む仕組みだ。だが、手を挙げる事業者からすれば、既得権を握る同業者や、その利益を守っている監督官庁を敵に回すことになる。役所を敵に回せば、その案件は通っても、他のどこで意地悪をされるかわからない。まさに「江戸の敵を長崎で討たれる」ことになりかねないのだ。

 加計学園問題で特区が批判されるようになって以降、特区制度を使って規制を突破しようとする事業者が激減している。企業など民間からすれば、いくら政治家や内閣府が後押ししてくれても、監督省庁と事を構えるのは危険だ。安倍内閣も永遠に続くわけではない。

 特区に選ばれた自治体も尻込みしている。「これまでは特区に選ばれたことが大きなPR材料だったが、なぜ特区などに手を挙げたのかという批判から住民の中からも出るようになった」(特区に指定されている自治体の首長)という。自治体の首長としても特区に手を挙げるのがリスクになり始めているのだ。

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