
経営危機に直面している東芝から、次々と原子力技術者が去っている。「会社」を存続させるため、半導体メモリー事業の売却に経営陣や政府が躍起になっている間に、肝心の原子力部門が静かに崩壊を始めているのだ。東芝の原子力部門は東京電力福島第1原子力発電所の汚染水処理や廃炉で中心的な役割を担ってきた。そこからの人材流出は、国民の生命に直結する事故処理の大きな支障になりかねない。
東芝は6月21日、半導体メモリー事業の売却交渉で、官民ファンドの産業革新機構を軸とした「日米韓」連合と優先的に交渉すると発表した。同日午前に開いた取締役会で決議した。日米韓連合には、産業革新機構と日本政策投資銀行、米投資ファンドのベインキャピタル、そして韓国半導体大手のSKハイニックスが加わる。
報道によると、「日米韓連合」は優先交渉権を得て、東芝の半導体メモリー子会社を買収するための特定目的会社(SPC)を設立。産業革新機構と政策投資銀行が各3000億円、ベインキャピタルが8500億円を出資するという。ベインキャピタルの出資額のうち4000億円をSKハイニックスが融資、三菱東京UFJ銀行からも5500億円の融資を付けることで、東芝が望んでいる「2兆円」の買収資金を確保する見通しだという。
事態は流動的だが、東芝は6月28日に開催する定時株主総会までに最終合意し、2018年3月までの売却完了を目指すとしている。
「付け焼き刃」に終始する経済産業省
日米韓連合の組成には政府・経済産業省の意向が大きく働いた。だが、国が設立して税金も投入されている産業革新機構を使うにもかかわらず、政府は、東芝を建て直すための全体像も、半導体や原子力などの産業を今後どうしていくのか、という産業政策も持ち合わせていない。付け焼き刃の対応に終始しているのだ。
政府が主導して半導体メモリー事業の買収受け皿を用意したのは、決して「東芝を守る」ことが目的ではない。もともと経産省は東芝問題に尻込みしていた。粉飾決算が表面化して経営陣が入れ替わった後、2016年3月末に医療機器事業を売却したあたりまでは「東芝救済」に動く経産省幹部もいたが、同年末に米原子力事業での巨額損失が発覚すると経産省の動きは止まった。
もともと、東芝が米原子力大手ウエスチングハウスを買収する過程で、経産省幹部が深く関与しており、「経産省の責任」を問われるのを恐れたからだ。買収当時に担当課長だった現職幹部は、東芝について一切口にしなくなった。
そんな経産省が半導体事業の売却について口を出し始めたのには1つのきっかけがあった、と官邸関係者は言う。
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