産業構造の大転換には、経済産業省の大転換が不可欠

 この「変革」を本気でやろうとすれば、日本のこれまでの産業政策を大きく変えることになる。逆に言えば、経済産業省が自らの役割を大転換しない限り、この変革はうまくいかない、ということだ。

 どういう事か。

 これまでの産業政策の基本は「日本のモノづくりを守る事」「製造業を育成する事」にあった。円高になれば、日本国内での工場立地を守るために助成金を出し、製造業を国内に残すことに軸足を置いてきた。

 経済産業省の部局は製造業の業界別の縦割りで課室を設け、それぞれの業界団体の要望を受け入れて政策を実施してきた。自動車課長なら日本の自動車産業を国内に残すために自動車業界のためになる政策を作るといった具合である。

 そうした企業や業界団体へ役人OBの天下りという「利権」と結びつき、「業界全体のため」にならない政策には本気で取り組まない体質が出来上がっている。ひと昔前は、いかに現役時代に業界に恩を売っておくかどうかで、退職後の生活が左右されるといった事を公言する経産官僚もいた。

 これまでも産業構造審議会では日本の産業構造の転換などを求める報告書をまとめてきたが、業界護送船団の経産省の体制が色濃い中では、現実には構造転換を進めることは難しかった。本気で「第4次産業革命」を実現しようとすれば、まずは経産省の「変革」が前提になるのだ。

 報告書の作成にも関わった経産省の幹部は「われわれの産業政策も大転換するという事だ」としたうえで、こう語る。

産業界はもはや一枚岩ではなくなった

 「例えば規制緩和をする場合でも、何が必要か企業ごとに変わってきた。業界内で利害が一致しなくなってきた」

 つまり、企業によって人工知能やロボットへの取り組み姿勢に大きな変化が出る中で、業界が一枚岩ではなくなったということだ。経産省内では業界縦割りの組織の抜本的な見直しに向けた検討も始まろうとしている、という。「業界」を前提とした産業政策との決別に動こうとしているのだ。

 実はそうした経産省の「変革」には企業で始まった大きな変化のうねりがある。これまで「製造業」に固執してきた企業の中にも変化が起きているというのだ。

 別の経産省幹部は「あのトヨタが本気になった」と語る。ほんの数年前まで、モノづくりにこだわり、自動車の無人走行などに拒絶反応を示していた業界トップが、人を運ぶシステムや人工知能の研究開発に猛烈なシフトをし始めたというのだ。

20年後のトヨタは業態転換しているかもしれない

 実際トヨタはシリコンバレーに人工知能の研究所を新設、旧来の「自動車製造業」の枠にとらわれない領域に踏み出した。また、「ライドシェア」の配車システム大手である米ウーバー・テクノロジーとの提携にも踏み切った。もしかすると20年後のトヨタは自動車製造で利益を上げる会社ではなくなっている可能性が出てきたのだ。

 そうは言っても、本当に業界に寄り添ってきた経産省が変わり、実際の産業政策が大転換できるかどうかは微妙だ。旧来型の仕事の仕方を見直し、これまでの利権構造を打破することが求められるからだ。もし経産省の幹部官僚たちが本気だと言うのならば、まずはこれまでの産業政策を真摯に検証すべきだろう。

 国内の工場立地を守るため家電業界に助成金をばらまいたことが、結果的には企業を弱めることになったのではないか。シャープや東芝の崩壊はこれまでの産業政策の帰結だったのではないか。過去の反省なくして新しいものは生まれない。まずは経産省を「変革」するために検証委員会を立ち上げるべきだろう。