消費税6~7%分の負担が増加

 財務省が公表している「国民負担率」を使って国民所得から逆算すると、社会保険料の負担は2004年度の52兆1800億円から2015年度の66兆9800億円へと、14兆8000億円も増えた。消費税率1%の引き上げで2兆数千億円の税収増に当たるとされるので、消費税6~7%分の負担が知らず知らずの間に増えていたわけだ。

 社会保険料の個人負担が増えれば、当然、その分、手取りが減り、消費を抑えることになる。また、企業にとっては社会保険料の増加は実質的な人件費増加と同じ。ベースアップや賃上げに回す余力がなくなる。この傾向は中小企業ほど顕著だ。

 2014年4月からの消費税率引き上げの影響が、その後の消費低迷に結び付いているという解説がある。税率引き上げから3年たっても影響が残っているというのは考えにくく、別の要因があると見る方が正しいだろう。つまり、社会保険料の増加による可処分所得の減少が、今の消費低迷に結び付いていると考えるのが自然だ。

 とすると、消費低迷が「底打ち」するタイミングがやって来る可能性がある。前述の通り、年金保険料率の引き上げは2017年9月まで。つまり今年9月が最後の引き上げなのだ。これをきっかけに、来年以降は可処分所得が増加していくことになるかもしれない。来年4月のベースアップが実施されれば、その分、手取りが増える可能性が大きい。

 もうひとつ期待されるのが、「資産効果」だ。株価や不動産価格が上昇することで、財布のひもが緩み、消費が増える効果だ。2013年にアベノミクスが始まり株価が大きく上昇した際には、この「資産効果」が顕著に表れた。

 それが如実に表れる統計がある。百貨店売上高の中の「美術・宝飾・貴金属」の売り上げである。3月のこの部門の売り上げは前年同月比で0.6%のマイナス。13カ月連続でマイナスが続いているのだが、ここへ来て減少率は小さくなっている。しかも「主要10都市」だけをみると、3月は0.7%増と、プラスに転じている。中古マンションなど不動産価格が上昇している都市部で、「資産効果」の消費が出始めている可能性がある。

 日本のGDP(国内総生産)の6割は消費によって生み出されている。社会保険料の負担率増が止まる今年秋に向けて、政府は消費を後押しする景気刺激策を打つべきだろう。そのタイミングで不動産や株価などの上昇が起きれば、再び消費に火が付く可能性は十分にある。

 どんな政策を取れば、消費を後押しするかは、議論のあるところだ。消費税率を一時的に引き下げるのが効果的だとする意見もあるが、2019年10月に再度の消費税率引き上げを予定している現状では、反動の副作用を大きくする可能性が高く、難しい。

 住宅建設を後押しする政策も1つの方法だろう。家を新築したりマンションを新規購入したりすれば、それに付随してカーテンや家具、家電製品などの購買に直結する。

 いずれにせよ、保険料率の引き上げが終わる今年秋から、消費増税までの2年間が、消費を一気に底上げする大きなチャンスとみていいだろう。

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