「爆買い」に構造変化

 もっとも、以前のような「爆買い」が復活しているのかというと、だいぶ様相が異なる。ハイエンドブランドや高級婦人服・雑貨といった商品から、化粧品や食品といった低価格品に明らかにシフトしている。この結果、客1人当たりの購買額、いわゆる客単価は3月は6万6000円で、ピークだった2014年12月の8万9000円に比べて激減している。もっとも、その客単価も昨年7月の5万2000円を底に、上昇傾向にある。「爆買い」の構造変化が起きているのだ。

 背景には外国人旅行者の「質」が変わったことがあるのではないか。リピーターが増え、日本に何度もやってくる台湾人や中国人が増えた。当初は為替の関係で自国よりも安く買えた欧米の「高級ブランド」品に「爆買い」の照準が当たったが、日本の化粧品や食料品といった「日本ならでは」の商品に対象がシフトしていった。特に日本製化粧品の人気はすさまじい。百貨店協会の統計でも、化粧品は24カ月連続でプラスになっており、3月は11.7%も伸びた。外国人による購買が大きく後押ししているのは間違いない。

 訪日外国人による消費が全体を底上げしていると言っても、割合はそれほど大きくない。3月の百貨店売上高の3.8%だ。全体が振るわないだけに、外国人によるインバウンド消費の貢献度は小さくないが、本格的に消費が上向くためには、日本国内に住む居住者の消費が増える必要がある。

 日本人が財布のひもを緩めない背景には、給料が増えないという問題がある。安倍晋三首相は2014年以降、企業経営者に対して「賃上げ」を働きかけ、4年連続のベースアップが実現している。アベノミクスによる円安などで大きく好転した企業業績の成果を、従業員に還元し、賃上げが進めば、それが消費に向かい、景気が回復する。いわゆる「経済の好循環」を目指しているわけだ。

 首相の呼びかけによって「ベースアップ」は実現しているものの、一向にそれが消費に結びついて来ない。それはなぜか。

 実は、可処分所得が増えていないのだ。給与の支給総額は上がっても、手取りが増えないのである。厚生年金などの社会保険料が増えているからだ。

 多くの国民は忘れているが2004年の法律改正で、厚生年金の保険料率は2005年から毎年9月に引き上げられている。2004年9月に13.58%(半分は会社負担)だった保険料率は、それ以降、毎年0.354%ずつ引き上げられている。2017年9月には18.3%になり、それで固定されることが決まっているのだ。2004年と比べると、13年で4.72%も上昇するのだ。仮に基準となる給与が年400万円だとすると、会社負担分と合わせて19万円近く上昇することになる。

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