「株式持ち合い」を巡る原則を見直す

 改訂案では、「CEOの選解任の基準は未だ整備が進んでおらず、後継者計画についても、取締役会による十分な監督が行われている企業は少数にとどまっている状況にある」と指摘している。次のCEOを選ぶためのルールを確立していく必要性を訴えている。

 最近では次のCEOを選ぶために「指名委員会」を設置する例が増えているが、現CEOや取締役会に答申する「任意」の組織が多く、独立社外取締役が過半を占める委員会の設置を求める会社法に則った正式な「指名委員会等設置会社」は圧倒的に少ない。改訂案では任意の指名委員会を否定はしていないものの、「選解任プロセスの独立性・客観性を強化する」ことが必要だとしている。

 付随して、経営者の報酬に関する「補充原則」もより突っ込んだ表現に変えられた。「取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである」という一文が加えられている。

 日本企業の経営者報酬は近年、大幅に上昇しており、年間1億円以上の報酬を得ているケースも増えている。一方で、報酬の決定方式の透明性が乏しい例も少なくない。欧米では高額報酬への批判が高まっていることもあり、経営陣の報酬について株主総会で拘束力のない賛否投票を行うなど新しい取り組みが進んでいる。また、在任中の不祥事が退任後に発覚した場合など、過去に遡って報酬の返還を求める規定なども導入されつつある。

 日本ではこうした議論がほとんど行われておらず、今回のコード改訂でも突っ込んだ原則での記載は見送られている。

 今回、コードの「原則」が大きく見直されたのは「政策保有株」に関する原則。企業同士や企業と金融機関の間で相互に株式を保有し合う「株式持ち合い」を巡る原則だ。

 株式持ち合いは親密な会社が「安定株主」となることで、実質的に経営陣に「白紙委任」を与えることになり、外部の株主による経営チェックを弱めていると長年批判されてきた。一方で経済界からは、日本企業が長期志向で安定的な経営を遂行するための重要な慣行だとして規制の強化には強く反発してきた経緯がある。ちなみに米国では銀行が企業の株式を政策目的として保有することは原則として禁じられている。

 ガバナンス・コードではこれまで、「政策保有に関する方針を開示すべき」としてきたが、今回の改定ではこれを「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」と変えている。株式持ち合いの「縮減」を目指すべきだと明示しているわけだ。

 さらに、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを大きく変更。「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」と踏み込んだ。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか、と問われると、なかなかそれを立証するのが難しくなる。企業経営者からすれば、そこまで理屈立てて説明しなければ許されないのなら、株式持ち合いは止めようという判断になるだろう。