安倍晋三内閣は成長戦略の柱として、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)強化を掲げている。企業に「稼ぐ力」を取り戻させることで、経済成長を促そうという考えだ。2014年以降、企業のあるべき姿を示す「コーポレートガバナンス・コード」と、株主である機関投資家の行動指針である「スチュワードシップ・コード」を相次いで導入、これを「車の両輪」として規律を働かせる意向だ。
 一方で、東芝の巨額会計不正などガバナンスのあり方が問われる問題も発覚している。ACCJ(在日米国商工会議所)で成長戦略タスクフォース委員長を務め、自民党に両コードの導入などを働きかけてきたニコラス・ベネシュ・会社役員育成機構(BDTI)代表理事は、年金基金などにガバナンスをきかせることが重要だと語る。

安倍晋三内閣はアベノミクスの成長戦略の柱として「コーポレートガバナンス(企業統治)の強化」を掲げて、改革に取り組んでいます。ベネシュさんはどう評価しますか。

ニコラス・ベネシュ氏(以下ベネシュ) 以下は、あくまで個人の意見です。安倍内閣による「スチューワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」という2つのコードの導入は、重要な一歩だったと思います。問題は、その車の両輪がきちんと機能し始めているのかどうか、ということでしょう。

 スチューワードシップ・コードは、年金運用に携わる多くの金融機関が受け入れのサインをしました。しかし、その多くは金融庁の目を意識したり、営業のためにサインしているだけで、これによって運用業者である機関投資家の行動が大きく変わったようには見えません。

年金基金は署名せず

 問題は実際に運用資産を保有している人、つまり運用を委託する顧客であるエンド・アセット・オーナー(最終資産保有者)がスチュワードシップ・コードに署名し、それを守るために動き始めていないことです。

 最終資産保有者はだれかというと、年金資産を運用する年金基金や、投資信託などで運用する個人です。特に一番大事なのは年金基金が動くことです。日本の私的(企業)年金基金でスチュワードシップ・コードに署名しているところは、銀行系を除くとほとんどありません。

ニコラス・E・ベネシュ氏
 独立系M&Aアドバイザリー専業ブティックのジェイ・ティ・ピー代表取締役。米国スタンフォード大学卒業後、米国カリフォルニア大学(UCLA)で法律博士号・経営学修士号を取得。旧J.P.モルガンに入り、11年間勤務した後独立。2009年に公益社団法人「会社役員育成機構(BDTI)」を設立し代表理事に。日本在住は30年を超える。これまでにアルプス取締役、スキャンダル後のLDH(旧名ライブドア)、セシールなどの社外取締役を歴任した。在日米国商工会議所(ACCJ)の成長戦略タスクフォース座長なども務める。

スチュワードシップ・コードは英国で導入された仕組みですね。

ベネシュ 英国でも同じ事が問題になりました。スチュワードシップ・コードに魂を入れたのは年金基金だったのです。年金基金が本気になれば、その資金運用を受託する金融機関も本気になるります。基金から「きちんと運用しないなら委託先を変える」と言われれば、受託している資金のサイズが大きいだけに、機関投資家は真っ青になって行動します。

  機関投資家が運用成績を上げるために、本気で企業に圧力をかければ、コーポレートガバナンスが機能するわけです。

 逆に年金基金が何も言わず、運用する機関投資家に任せきりだったら、彼らは何もやりません。株主としての企業に収益改善を求めたり、配当増額を求めたりするような「対話」や「エンゲージメント」は大きなコストがかかるからです。英国でも企業年金がスチュワードシップ・コードに署名するまでは、この仕組みはあまり機能していなかったのです。英国では公的年金や大手の企業年金による署名は始まったばかりですが、すでに88機関が署名しています。

米国はどうなっていますか。

ベネシュ 米国でガバナンスが大幅に進んだのはエリサ法(ERISA=従業員退職所得保障法)の効果です。1974年にできた法律で、厳格なフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)が課されています。年金基金の理事は受託者責任を負っていますが、同時に資産運用している金融機関も連帯責任に近いような受託者責任を負っています。お互いと監督し合う関係になっています。