また、会計士個人の力量の向上と同時に、監査法人等が組織として企業不正に適切に対応できるよう、実効的なガバナンスと有効に機能するマネジメントのもとに、しっかりとした監査の態勢を整備することが不可欠である」

 つまり、不正が起きたのは、会計士の能力不足と経営者と対峙した際に「臆した」ことだ言っているわけだ。

 そのうえで提言では、監査法人の経営にチェック機能を働かせるために「監査法人のガバナンス・コード」を導入することや、会計監査に関する情報開示の充実、当局や日本公認会計士協会による検査・監督態勢の強化などが示されている。

 では、提言が示す具体策を実施すれば、二度と新日本と東芝のような問題は起きないと言い切れるのか。オリンパス事件が起きた後に「監査基準」を変えたが、それでも東芝問題は起きた。もっと根源的なところに問題の根があるのではないのか。

 なぜ、会計士は経営者と対峙して「臆する」のか。それは監査法人と大企業の関係が本来あるべき、「対等な関係」になっていないからではないか。監査法人の独立性である。東芝のような老舗企業と、その監査を代々受け継いできた会計士の間に「なれ合い関係」が生じているのではないのか。

 緊張感を取り戻し、対等な関係を生むには、一定期間で監査法人を強制的に交代させるローテーション制の導入が手っ取り早いのではないのか。そうした専門家の声があるからこそ、懇談会の提言に盛り込まれるかどうかが焦点になったのである。

 監査法人のローテーションはすでにEU(欧州連合)で導入が決まっている。懇談会でも当然の課題として取り上げられたが、森会長ら会計士業界に近いメンバーは強い難色を示し続けたという。金融庁の事務方は導入に前向きだったが、結局、結論は先送りされた。

 反対派や慎重派の主張のひとつは「導入してもよいが、コストがかかる」というものだ。会社の実情を良く知る監査法人から、初めて監査する法人へと変わる際に監査時間が増えるなど手間暇がかかるというわけだ。もうひとつは監査法人が大手4法人に集約されている現状では、交代させることが物理的に難しい、というものだ。

上場企業寡占を手放したくない大手

 だが、両方とも、大監査法人の「利益」を前提にした話だということが分かる。交代義務付けで、上場企業の監査契約を複数の法人で競争することになれば、むしろ監査契約料は下がる可能性がある。

 4つで引き受けるところがなくなれば、中堅監査法人に上場企業の監査業務がシフトしていくだけだろう。現在は大監査法人が寡占している上場企業の監査業務を失うのが嫌だと言っているに等しい。

 競争が働き、企業と監査法人の間に緊張感が生まれれば、むしろ監査制度にとってはプラスなはずだ。もちろん、監査法人が交代することによって担当会計士の企業への理解度が低下することはあるとしても、癒着によって生じるデメリットに比べればマシに違いない。