東芝の巨額不正会計の発覚などを受けて金融庁が設置した「会計監査の在り方に関する懇談会」(座長、脇田良一・名古屋経済大学大学院教授)が3月8日、提言をまとめた。

 最大の焦点だった、監査法人を一定期間ごとに強制的に交代させるローテーション制度の導入は、「我が国においても有効な選択肢の一つであると考えられる」としたものの、メリット・デメリットについて「金融庁において、深度ある調査・分析がなされるべきである」と述べ、結論を先送りした。

 なぜ、大手の監査法人による「不正見逃し」が繰り返し起きるのか、日本を代表する企業の粉飾をなぜ許してしまったのかーー。監査制度そのものの根幹が揺らいでいるのだが、提言を読む限り有識者たちの「危機感」は乏しい。

懇談会のメンバーは利害関係者ばかり

 懇談会は、「最近の不正会計事案などを契機として改めて会計監査の信頼性が問われている」点をふまえて昨年秋に設置された。8人のメンバーには日本公認会計士協会の森公高会長や公認会計士の初川浩司氏のほか、会計監査制度を決める企業会計審議会の常連が並んだ。読売新聞の論説委員がひとり加わっている以外は、会計監査業界の“利害関係者”といっていい。

 しかも、役所の審議会や懇談会は公開が原則だが、この懇談会は非公開で行われ、金融庁が公表する議事要旨も発言者の名前は伏せられている。

 さらに、東芝問題が契機だったにもかかわらず、提言には「東芝」の文字は一度も登場しない。東芝を監査した業界大手の新日本監査法人が、なぜ不正を発見できず、長期にわたる粉飾を許したのかについては、懇談会としての見解を示していないのだ。

 提言では、「最近の不正会計事案においては」としたうえで、いくつかの例を挙げた。「製造原価がマイナスとなる異常値を監査チームの担当者が認識したにも関わらず、更なる検証や上司への連絡を行わなかった」としたものの、それを受けた一文では、「会計士個人として、また組織として、企業不正を見抜く力が欠如していたことが指摘されている」と、他人事のような表現にとどめている。

 そのうえで、以下のように書いている。

 「このような事態の再発を防ぐため、企業不正を見抜く能力と、不正の端緒を発見した際に経営者等と対峙して臆することなく意見を述べることができる気概を有する会計士を、どう育成し、確保するかが大きな課題である。

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