800万人から2000万人までの急増には、円安が威力を発揮したことは間違いない。だが、円安頼みの外国人誘致には副作用もある。逆に、日本人は海外旅行に行きにくくなっているのだ。
日本から海外への「出国数」は2012年に1849万人と過去最高を記録したが、アベノミクスによる円安が始まった翌年から減少に転じている。2013年は1747万人、2014年は1690万人とじりじりと減り続け、2015年は1621万人になった。ピークから220万人も減ったのである。
45年ぶりに入国数が出国数を上回り逆転
長い間、日本での人の出入りは、圧倒的に日本人の出国数の方が訪日外国人数よりも多い状態が続いてきたが、2015年にはついに訪日客数が出国日本人を上回り、逆転した。大阪で万国博覧会が開かれて海外から大勢の観光客が訪れた1970年以来、何と45年ぶりのことだ。
日本人はもはや海外旅行もなかなか覚束ない。アベノミクスによる円安で日本人は貧しくなっている、という見方もできる。
訪日外国人の目標を2000万人から3000万人に引き上げると言っても、円安をさらに進めることで外国人を増やしていくような政策を取れば、日本人から生活の豊かさの実感がどんどん失われていくことになりかねない。日本人の疲弊の上に外国人旅行者の豊かさが生まれるとしたら、終戦直後の日本に逆戻りである。
もちろん、政府は円安だけを頼みに外国人旅行者の誘致を図っているわけではない。政府によるビザの大幅緩和なども日本への来やすさにつながっている。「爆買い」にしても、消費税の免税対象の大幅な拡充が後押ししている。
制度変更で化粧品、医薬品の魅力増す
2014年10月から、化粧品や医薬品、食料品なども消費税免税の対象に加えられたのだ。今や「爆買い」のひとつのターゲットが化粧品や医薬品になっているのは、この制度変更の効果が大きい。
また、官民挙げて訪日旅行のプロモーションを展開することが、旅行需要の掘り起こしという成果を上げている。中国から来る大型クルーズ船の寄港が増え、チャーター便を中心に航空路線も大幅に増えた。
一方、最近、日本のスキー場での外国人スキーヤーの遭難騒ぎが相次いでいるのをご存じだろうか。この現象が示すように実は元々目立っていたオーストラリアや欧米のスキー客がさらに大幅に増えているのだが、彼らは価格の安さだけを選択基準に来日しているわけではない。
日本にやってきたスキーヤーが日本の雪質の素晴らしさに気づき、インターネットなどで情報が拡散したことから、日本の雪質を求めてやってくる外国人スキーヤーが増えたのだ。北海道のニセコのように、外国人をターゲットにしたサービスを強化する動きもあり、外国人にとって快適なスキーリゾート・ライフを日本で楽しめる環境も整ってきた。実はこの「質の充実」が大きな意味を持つのである。
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