かつて「消えた年金」への怒りが第1次安倍内閣を倒した

 10月に衆議院東京10区の補欠選挙が行われた際には、民進党の大串博志・政調会長や、「ミスター年金」こと長妻昭議員らが東京・巣鴨の「とげぬき地蔵」で知られる地蔵通り商店街で演説し、「年金カット法案」への反対を呼びかけた。その際には、法案に賛成かどうかをお年寄りらに聞いてボードに赤丸印を貼ってもらう演出を行っていた。年金が減額されると聞けば、賛成に丸を付けるお年寄りはひとりもいない。「反対」欄が赤丸で埋め尽くされることとなった。

 民進党が「年金」を選挙の争点にしようとしたのは正しいだろう。かつて「消えた年金」への国民の怒りが第1次安倍内閣を倒し、その後の民主党政権の誕生へとつながった。依然として年金に対する国民の関心は高い。

 このままでは将来、年金がもらえないのではないか。掛けた保険料はドブに捨てることにならないか。年金で本当に生活ができるのか──。高齢化が進む一方で、年金制度への安心感は大きく揺らいでいる。

増加し続ける社会保険料の負担

 一方で、保険料を支払う現役世代の負担感も大きく増している。多くの国民は忘れているが2004年の法律改正で、厚生年金の保険料率は2005年から毎年9月に引き上げられている。2004年9月に13.58%(半分は会社負担)だった保険料率は以後毎年0.354%引き上げられ、2017年9月には18.3%になり、それで固定されることが決まっている。2004年と比べると、13年で4.72%も上昇するのだ。仮に基準となる給与が年400万円だとすると、会社負担分と合わせて19万円近く上昇することになる。

 財務省は毎年、国民所得に占める税金と社会保険料の割合を示した「国民負担率」を公表している。2015年度は税と社会保障を合わせて44.4%と過去最高を記録した。この統計から逆算すると、社会保険料の負担は2004年度の52兆1800億円から2015年度の66兆9800億円へと、14兆8000億円も増えている。

 消費税率1%の引き上げで2兆数千億円の税収増に当たるとされるので、消費税6~7%分の負担が知らず知らずの間に増えていたことになる。

現役世代への負担増はもう望めない

 長引く消費低迷の主因も、実は保険料負担の増加による可処分所得の減少にあったとみていい。もはや現役世代への負担増は望むべくもないのだ。

 年末に成立した改正国民年金法では、現役世代の保険料引き上げによる収入増が頭打ちになることを前提に、高齢者への年金支給を抑制することを狙っている。従来の年金支給は物価に連動して増減されるようになっていたが、現役世代の賃金が下落した時も、年金支給額を引き下げられるようにした。現役の賃金が下がれば、保険料率が変わらない以上、保険料収入は減少する。それに合わせて年金支給額も減らすというわけだ。

 逆に言えば、物価や賃金が安定的に上昇していれば、年金が減ることはない。民進党などが強調したのは、物価が上昇しても、現役世代の賃金が大幅に下落した場合、年金が減ることになるという点だ。ここに焦点を当てて「年金カット法案」と喧伝したのである。もちろん、年金が減るのは年金を受け取っている高齢者にとっては切実な問題に違いない。だが、現役世代の賃金が下がっても年金額を維持すれば、年金財政は悪化し、将来の年金制度が危機にさらされることになる。