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海上自衛隊の哨戒機P-1。今回、火器管制レーダーを照射されたものの同型機(写真=Shutterstock/アフロ)

 韓国海軍の艦艇が、自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した事件は、韓国軍兵士による「指揮命令」違反、事実上の反乱である。正常な軍隊ならば絶対に起こり得ない事態だ。韓国政府内は大揺れで、軍最高司令官でもある文在寅(ムン・ジェイン)大統領の権威と正統性はズタズタとなった。日本政府は、日米韓3国による調査を求めるべきだ。

 韓国の大統領は、韓国軍の指揮命令系統を厳重に監視してきた。筆者がソウル特派員時代に取材した軍首脳によると、理由の第1は北朝鮮との戦争を防止するため。軍が勝手に北朝鮮に攻め込んでは困る。

 第2に、クーデターを警戒してきた。韓国軍の部隊は、クーデター防止のためソウル方面への後退移動は禁止されている。また、師団以上の部隊が移動する際には前後左右の隣接師団へ通告することが義務づけられている。

 国防省や陸海空の軍参謀総長の要職に、有能で人望ある軍人を決して任命しない。大統領への忠誠心を持つことが、選抜における最大の条件だ。さらに、各部隊には「保安担当」の政治将校を配置し、司令官と部隊将校らの動向に目を光らせてきた。

 ところが今回、韓国軍の統制力のなさが世界に知られるところとなった。平時に、海軍艦艇の兵士か、将校、艦長、あるいは海軍首脳が「照射命令」を出したのだから、「指揮命令」違反であり事実上の反乱だ。文在寅大統領の最高司令官としての責任が問われる。軍を統治する政権の能力が問われる極めて衝撃的な事件である。 韓国政府が、「レーダー照射でない」と嘘をつく理由が、ここにある。

北朝鮮の漁船を救難するため、という嘘

 日本の世論は、レーダーを照射したことを韓国が正直に認めて謝れば済む話、と思うかもしれない。けれども、韓国を覆う政治文化の下では、認めるわけにはいかないのだ。軍最高司令官としての文大統領の権威とメンツは、丸潰れになる。だから、「遭難した北朝鮮漁船の捜索」 と、まったく辻褄の合わない説明をした。

 韓国国防省は、レーダーを照射した事実について「気象条件が良くなく、遭難した北朝鮮漁船を探すため、すべてのレーダーを稼働させた」と説明した。この説明は、納得できない。火器管制レーダーは指向性が高く捜索には適さない。

 そもそも、海軍の艦艇に北朝鮮の漁船を救助する任務が与えられているのか。それも、何十人乗りの大型船ならともかく、数人しか乗れない小型漁船だという。漁船の救助は、日本でも韓国でも海上保安庁の任務だ。海軍艦艇は、あくまでも防衛――北朝鮮の艦船の侵入を防ぎ、工作船を摘発する――が任務だ。

 仮に、救助が任務であったとしても、遭難漁船の救助と探索を支援するよう北朝鮮から要請があったわけではない。 北朝鮮政府が要請してもいないのに、韓国海軍は、北朝鮮漁船の救助を自主的に任務にしたのだろうか。

 百歩譲って、漁船を装った北朝鮮の工作船対策や、北朝鮮タンカーによる石油「瀬取り」の取り締まりなら、まだ納得できる。でも当時は「気象条件が良くなかった」(韓国国防省)というから、海上での瀬取りは難しかっただろう。