北朝鮮はそれでも、当時、年に300万トン近い石油を輸入していた。今は、50万トンにも満たない。だから、北朝鮮軍は通常兵器では、戦争できない状態にある。ジェット戦闘機や戦車も余りに古すぎて役に立たない。このことに、将校から一般兵士までの多くが気づいている。米韓軍に攻められたら勝てないし敗北するとの恐怖がある。ただし、それを口に出すことはできない。

 軍人の脱北者によると、こうした不安から軍部隊内の事件が絶えないという。軍指導者にも不満が向いており、襲撃事件が起きたという。軍内部の金正恩委員長への忠誠心は低下し、揺れているのだ。軍の忠誠心を高め、指導者としての威信を確立するには、ミサイルと核の保持が不可欠だ。

 いまや韓国軍と米軍は、1年を通じで演習を行っている。1年の演習が終わる冬には、北朝鮮軍の石油は底をついている。とても戦争なんかできないから、米韓軍が攻めてくると本気で恐れている。抑止するには核兵器を保有するしかないというのが軍指導部の戦略的判断だ。

 だから、北朝鮮軍は「死んでも核兵器を放棄しない」方針である。金正恩委員長は、この戦略に反対できない。もし、核開発に反対したら、追放されるか暗殺されるだろう。

 つまり北朝鮮は、中国でのG20首脳会議に対決姿勢を示し、米朝対話を求めて核実験をしたわけではない。G20首脳会談に合わせてミサイル実験をすれば中国は怒る。メンツを潰されるのだから。核実験をすれば、米国も怒り対話に応じない。逆に「核実験しない」と言った方が、対話と交渉は実現できる。専門家でなくても分かる理屈だ。だから、今回は米朝交渉が最大の目的ではなかった。金正恩委員長の権威と指導体制を維持するためだった。

「最終確認した」の意味

 北朝鮮の核開発やミサイル開発が進展しているのは間違いない。だが軍事専門家は、「まだ問題が多い」と指摘する。北朝鮮には、ミサイルや核兵器の重要部品を製造する技術はない、という。多くの部品は、ヤミ市場や先進国から密かに運び込むしかないからだ。

 日本からも、多くの部品が密輸されている。90年代から2000年頃まで、ミサイル工場で働いた経験を持つ脱北者が「日本に向かうミサイルに搭載する電子部品や、弾頭部分の特殊金属に日本製のものが搭載されていた」と証言していると韓国の情報機関が報告していた。

 北朝鮮はこれまで、核実験やテポドンなど長距離弾道弾の実験を、数年おきに行ってきた。製造までに、長い時間を必要とするからだ。これに対して今年は、20発ものミサイル発射実験を行っている。ただし「多くは在庫整理」と言われる。旧式のノドンやスカッド、中距離のムスダンが中心だからだ。潜水艦発射ミサイルは3発のうち1発しか成功していない。

 今回の実験で、北朝鮮はミサイルに搭載可能な小型の核弾頭の開発に成功した、と初めて公言した。これまでは、ミサイル搭載可能な核弾頭はなかったことになる。「すでに核搭載能力がある」との情報が何度も流れたが、実は違っていたことが確認されたわけだ。

 ミサイル搭載可能といっても、長距離弾道弾に搭載するには200キログラム程度に小型化しなければいけない。専門家は、それほどの技術はまだないと判断する。日本に届くノドンやムスダンなどの中距離ミサイルでも、700~1000キログラムほどに小型化する必要がある。北朝鮮の発表通りなら、700キロググラムから1000キログラムの小型化に成功したことになる。

 北朝鮮は、国連や日米中韓ロの周辺大国や国際社会の反対を無視して、いつまで核実験を続けるのか。膨大な資金を核実験ではなく国民生活の向上に使わなければ、「金正恩政権はやがて崩壊する」と予想されている。中国も金正恩政権を崩壊させざる得なくなる、との指摘も聞かれる。どうするつもりなのか。

 北朝鮮は今回、「(核弾頭の)性能と威力を最終確認した」と公式発表した。なぜ「最終確認」との表現を使ったのか。北朝鮮の報道や公式発表は、文言に細心の注意を払い政治的な意図を込めている。別に「最終」の言葉を使わず、単に「確認した」と表現しても問題はなかったはずだ。