実は米国には昔から、北朝鮮の核保有を「認めてもかまわない」と考える勢力が存在します。オバマ政権時代に、大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたスーザン・ライス氏やクリントン大統領の時に国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏はその一部です。

 さらに、ある程度の核兵器を保有させた方が、地域の安定に役立つので、拡散させたほうがよいと主張する論者も居ます。ケネス・ウォルツ氏など核楽観主義者と呼ばれる人たちです。インドとパキスタンの間で均衡が保たれているのが一つの論拠です。いずれも核保有国である両国が隣り合っているわけですね。ウォルツは「北朝鮮に核を持たせるならば、日本と韓国にも持たせるべきだ」と論じています。

 北朝鮮が核保有国となることは、日本にとっては戦後の大きな国難です。しかし、米国には日本ほどの危機感はありません。ロシアや中国と既に相対してきている。それに北朝鮮の問題は地球の反対側のアジアの話です。さらにトランプ政権になって、米国第一主義や白人至上主義に傾いている。

仮に話し合いが実現したとして、北朝鮮は何を得ようとするのでしょう。朝鮮戦争を終わらせ、米国と平和条約を結ぶことが狙いとされています。

川上:加えて、平和条約締結に伴う国連軍の解体。在韓米軍の撤退でしょう。

北朝鮮は2013年に「並進路線」を取ると宣言しました。核抑止を完成させ、国防費を増やす必要をなくしたうえで、経済の再生に注力する。今、挙げていただいた三つを実現し、経済の再生に専心したいわけですね。

川上:経済再生はもう少し先の話になるかもしれないですね。

 このシナリオは日本にとっては必ずしも良いものではありません。朝鮮戦争が終結すれば、先の大戦に関わる賠償金を北朝鮮から求められるようになるでしょう。慰安婦問題も浮上します。

攻撃の引き金は中国の同意と米国の世論

米国が軍事力行使を決断するとしたら、どのような条件がそろった時でしょう。

川上:大きく三つあると考えています。一つは中国が同意すること。中国がなんとしても北朝鮮を守ると言ったら、米国が動くのは難しい。まして、中国が核兵器の使用も辞さないという場合はなおさらです。

 ただ、米国による軍事力行使をめぐる米中の話し合いが進んでいる気配を感じます。環球時報*を読んでいたら、こんな記事が載っていました。

 米国が北朝鮮に対して先制攻撃をするならば、中国は中朝友好協力相互援助条約に基づいて北朝鮮を支援する。一方、北朝鮮が先に手を出した場合は中立を維持する。
*:人民日報系の国際情報誌

米国が軍事力を行使するつもりならば、北朝鮮に先に手を出させればよい。中国は黙認するという意味ですね。

川上:そう取れると思います。

 もう一つは米国内の世論が十分に高まることです。世論と議会が同意しない以上、トランプ大統領は動かないと思います。

 仮に北朝鮮が発射したミサイルが日本に着弾しても通常弾頭であったら動かないかもしれません。その程度のことでは、かつて対日戦争に向けて米国の背中を押した真珠湾攻撃のようなインパクトはないと思います。湾岸戦争の時、イラクが放ったミサイルがイスラエルに着弾しました。イスラエルは報復しようとしましたが、米国は我慢させました。

 三つ目は、同じく世論です。ただし、反トランプ世論の高まりです。米シャーロッツビルで白人至上主義者と市民が衝突しました。あの時のトランプ大統領の対応を契機に米国に住む白人の半分近くが不満を持ったとされます。彼らの声を代弁していたバノン氏を排除したことが、この動きに輪をかけた。一方、ロシアゲート疑惑への不信に端を発する反トランプ感情も高まっています。これらがある線を超えた場合、その目をそらすために北朝鮮を攻めるというケースが考えられます。