北朝鮮は、5月に開いた労働党大会と今回の最高人民会議を通じて「先軍」と「軍事優先」政策を封印した。金正日時代には頻繁に使われた「先軍政治」の言葉を無視し、金正日総書記が推進したのは「軍事優先政治」であった、と強調した。事実とは異なることをわざわざ強調するところに、金正恩政権が軍部優先体制を変更しようと苦心している様子がうかがえた。「先軍」でなく「軍事優先だった」と、懸命に表現を変更したのだ。

 さらに、金正日時代に「軍事優先」は歴史的な成果を上げた、と強調した。これは、成果を上げたので「これで終わりにする」との意味だ。「軍事優先」政治を「発展的解消」すると強調した。ここにも、なかなか苦労していることが見て取れる。

金正恩の新たな側近たち

 国防委員会の国務委員会への変更は、当然、人事の変更を伴う。軍の長老であった呉克烈(オ・グンリョル)と李勇武(リ・ヨンム)の二人の国防副委員長が更迭された。国務委員会の副委員長には、崔竜海(チェ・リョンヘ)と朴奉珠(パク・ホンジュ)の党政治局常務委員が任命された。明らかな軍人排除で、党人材の登用である。

 呉克烈氏は、軍の元老で金正日総書記の片腕であった。党作戦部の特殊部隊、約6000人を握るとともに、良質の金を算出する金山を資金源として与えられた。この部隊は、最新鋭の武器を揃えた精鋭の親衛隊。最近は3000人に削減されたが、それでも強大な兵力を有していた。金正恩委員長は、この部隊と金山を呉克烈氏から奪ったのだろう。

 北朝鮮の軍隊は、抗日戦闘と朝鮮戦争に参加した軍人を英雄視する。解任された呉克烈氏と李勇武氏はそうした軍人で、軍部の反乱を抑える「重石」の働きをしてきた。二人の解任により、軍を絶対的に抑えうる元老がいなくなる。

 軍元老の退場と同時に表舞台に登場したのは、金英哲(キム・ヨンチョル)軍事委員(党政治局員、副委員長)である。同氏はもともとは軍人で、特殊部隊を担当する偵察総局長の要職にあった。南北共同事業の開城工業団地を管轄する板門店司令官を務めた経験も持つ。板門店司令官時代の金英哲氏に何度も会談した韓国側の要人は、「ものすごく頭が切れ、人を魅了する話術がある」とその能力を高く評価した。金英哲氏は、偵察総局長に就任してから数年のうちに五段跳びの出世を実現しており、金正恩委員長の側近中の側近と言っていいだろう。

 ちなみに金英哲氏と呉克烈・国防副委員長は犬猿の仲と言われている。金英哲氏が偵察総局長時代に、呉克烈氏が握る作戦部の部隊と兵器を奪い取ろうと試みたからだ。これは失敗に終わり、半分しか渡されなかった。

 新たに国務委員に任命された李秀勇(リ・スヨン)元外相(党政治局員)と李容浩(リ・ヨンホ)外相(政治局員候補)も新たな側近だ。李秀勇委員は、金正恩委員長がスイスに留学していた時のスイス大使で、留学中の面倒をみた。また、金正日総書記の海外隠し口座の管理人としても知られている。