北朝鮮は、6月29日に行われた最高人民会議(日本の国会に当たる)で憲法を改正して国防委員会を廃止。代わりに国務委員会を設置する「体制転換」を決定した。軍部が主導するこれまでの政治をやめ、金正恩をトップに戴く朝鮮労働党が指導する政治へ変える。金正恩による「親政クーデター」とも言うことができる歴史的な変化である。

金正恩氏が、国務委員会の委員長に就任した(写真:KCNA/新華社/アフロ)
金正恩氏が、国務委員会の委員長に就任した(写真:KCNA/新華社/アフロ)

 利権と権限を奪われる軍部の不満が高まるだろう。背景には、経済制裁による資金不足がある。在日朝鮮人とともに運用してきた合弁企業を国有化するなどして資金源を確保しようとしているのが現状だ。この状況を打開するには日本から資金を導入するしかない。年末から来春に向け、北朝鮮が日本への接触を試みる可能性が高い。

国防委員会を廃止――軍部が主導する政治の終わり

 北朝鮮の報道機関は29日夜に、「国防委員会廃止」ではなく、「国防委員会を国務委員会に改める」と淡々と報じた。金正恩国防委員会第一委員長が、国務委員会委員長に就任したとだけ伝えた。体制の歴史的な大転換であるにもかかわらず、国内の動揺を抑えるために、まったく問題がないかのように報道した。

 その意図が、発表文の行間から伝わってくる。

 金正恩国務委員長の父である金正日総書記が、軍人と軍部に多くの権限と利権を与える先軍政治を進めた。金正日総書記がトップに立った時、党には金日成時代からの幹部が残っており、思うように機能しないことに同総書記は不満を持っていた。先軍体制の中心機関が、国防委員会だった。だから、国防委員会の廃止は軍部優先政治の終わりを意味する。同時に、軍部優先政治の終了は、父親の業績を否定することを意味する。そうなると、金正恩委員長の指導者としての正統性が失われてしまう。

 北朝鮮の政治は、指導者の条件として(1)正統性(2)大義名分(3)偉大な業績――を求める。儒教思想と文化の影響が背景にある。祖父の金日成、父親の金正日と続く血統が(1)正統性の源である。また、この二人が残した革命の偉業と思想を継承することが(2)大義名分になる。このため、最高人民会議の発表文は、金正日総書記の「偉業」を強調し、息子の金正恩委員長が革命偉業と思想を継承している、とあえて強調した。

 しかし、父親が推進した「先軍政治」という表現は一切使わず、「軍事優先」との表現を使った。「先軍」と「軍事優先」では何が違うのか。「先軍」は、「軍部と軍人優先」で、彼らに権限を与えるとの意味である。具体的には、軍部と軍人による利権独占を意味する。一方、「軍事優先」の「軍事」は軍の作戦や兵器の調達などを指す。これは、金正恩委員長が進める「並進政策」――「核兵器開発」と「経済政策」推進の二兎を追う――に合致する表現だ。こうした違いがあるにもかかわらず、それでも金正恩委員長は、「軍事優先」を自身の政策としては言及しなかった。

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