史上初の米朝首脳会談が6月12日に開催された。「非核化」の具体策と期限が示されなかった点に批判の声が上がる。だが、北朝鮮外交・政治・軍事の研究者、宮本悟・聖学院大学教授は「焦点は『和解』にあった」と見る。そして「金正恩委員長は非核化を目指す」(同)

(聞き手 森 永輔)

この笑顔は米国との和解を達成した喜びを表すのか、非核化で譲歩しなかったことの達成感をしめすのか(写真:AFP/アフロ)

6月12日、史上初の米朝首脳会談が開催されました。注目されたのは、どんな点ですか。

宮本:第1に、北朝鮮が「完全な非核化」を米朝首脳会談で受け入れたことです。4月27日に行われた南北首脳会談の「板門店宣言」に記されている通りの内容です。これは北朝鮮が譲歩したことを意味します。

宮本悟(みやもと・さとる)
聖学院大学 政治経済学部 教授 1970年生まれ。同志社大学法学部卒。ソウル大学政治学 科修士課程修了〔政治学修士号〕。神戸大学法学研究科博士後期課程修了〔博士号(政治学)〕。日本国際問題研究所研究員、聖学院大学総合研究所准教授を経て、現在、聖学院大学政治経済学部教授。専攻は国際政治学、政軍関係論、比較政治学、朝鮮半島研究。著書に『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?:政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』(潮書房光人社)など。(撮影:加藤 康)

「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)が共同声明に盛り込まれなかったことから、「北朝鮮は非核化で譲歩することがなかった」とする見方が多くあります。

宮本:私は異なる見方をしています。まず北朝鮮は6カ国協議の際にCVIDを否定していました。なのでCVIDの「C」すなわち「完全な」が入った分、北朝鮮は譲歩したと見るべきです。

 もちろん「完全な」が意味するものが明確でないことは否めません。しかし、その点を責めるべきではないでしょう。そもそもCVID自体が曖昧なもので、同じ状態でも、北朝鮮に対して「まだCVIDになっていない」とも、「すでにCVIDである」とも言うことができるものです。極端に言えば、米国がこれはCVIDだと言えばCVIDになるのです。

 それに、今回は「首脳」会談です。和解し、非核化の大きな目標を示すことがその目的でした。「非核化」の定義が明確でないとの批判は的外れな気がします。よって「米国は負けた」「北朝鮮ペースで交渉が進んだ」と見るのは適切でないと思います。

「和解」の重要性に注目していますね。

宮本:はい。米国の見方は、非核化したら和解できるというものでした。しかし北朝鮮は「和解できたら非核化する」と考えている。そもそも、朝鮮戦争を発端とする米国との対立があるから北朝鮮は核開発を始めたのです。今回は、米国がこの北朝鮮の考えを受け入れて首脳会談に臨んだのだと思います。

 つまり、米朝が対立をやめ、和解と非核化のスタートラインに立つことが首脳会談の目的だった。この目的は一応達成できたのではないかと評価します。

 米国側で、この北朝鮮の考えを理解したのがマイク・ポンペオ国務長官だったと思います。

国務長官がレックス・ティラーソン氏からポンペオ氏に交代したのは、米朝首脳会談を開くという点においてはグッドニュースだったわけですね。ポンペオ氏が理解しているのはどこから分かるのですか。

宮本:5月13日に、「北朝鮮が核兵器を放棄する戦略的選択を行なえば、米国は北朝鮮に安全保障を提供する用意がある」と発言していました。

 北朝鮮がシンガポールでの会談に応じたのも譲歩です。元々はピョンヤンで開くことが北朝鮮側の希望でした。しかし、そうなれば北朝鮮の国民が「米国が謝罪に来た」と解釈する可能性があるでしょう。この案はドナルド・トランプ米大統領が拒否しました。