北の核開発は自主国防のため

宮本:北朝鮮は、ミサイルや核で周囲の国を脅し援助を得ようとしている、という見方があります。私はこれには与しません。北朝鮮は、米国から攻撃されないように抑止力として核とミサイルを開発しているのです。ですから、ただ対話しても、制裁を続けても、北朝鮮は核とミサイルを放棄しないでしょう。

それはソ連(当時)や中国が90年代前半に相次いで韓国と国交を回復したからですか。

宮本:そうです。北朝鮮に核の傘を提供していたソ連が、90年に韓国と国交を回復、91年に崩壊 してしまいました。その後ロシアは、ソ連と北朝鮮との協定をそのままでは継承せず、新協定は軍事的な性格を持ちません。北朝鮮としては安全保障上の後ろ盾を失ってしまったわけです。

 中国との軍事同盟は継続していますが、北朝鮮はこれを信用していません。中国も92年 に韓国と国交を正常化しており、これを北朝鮮は中国の裏切りと見なしているのです。

北朝鮮の立場に立って見ると周囲は敵だらけ。核で自衛する必要があるというわけですね。

宮本:その通りです。もともと他国に対する警戒心が強く、自主国防力を高めることを強調してきた国ですからね。

中国には頼らない

金正恩委員長と中国の関係は、同氏が政権に就いた時からよくないですね。同委員長はいまだに中国を訪問していません。

宮本:「金正恩氏が2013年12月に張成沢氏を粛清して以降、関係が悪化した」という人がいますが、その前から関係は良くなかったですね。むしろ、関係がよくなかったから張氏を粛清できたという方が、説明がつくかもしれません。

 さらにさかのぼれば、金正恩氏の父・金正日総書記の時代から中朝関係はそれほどよくなかったと言ってよいかもしれません。金正日総書記と中国の胡錦濤・国家主席の関係は首脳外交としては悪くなかったようですが、現場ではそれほどではなかったのです。たとえば、中国側が遼寧省丹東周辺を新たに開発して、交流を進めようとしたにもかかわらず、現場にいる北朝鮮側の反応は非常に冷たいものでした。

 一般的に北朝鮮の人々は「利益を中国に持っていかれる」という不信感がありました。北朝鮮には中国人を信用できないという人たちが数多くいます。金正恩委員長はこうした一般の声にも影響を受けているのでしょう。

 北朝鮮は毎年1月1日に政治方針を発表します。それを読むと、中国だけでなく様々な国と関係を強化するとうたっています。北朝鮮は、中国一国に頼ることなく、外交の水平線を広げることを目的としています。安全保障面でも経済面でも中国からは独立した立場なのです。核とミサイルの開発は、中国に頼らなくても独立を維持するためという考えからきているものです。経済面では、1970年代からそうでしたが、中東やアフリカ諸国など第三世界との交易関係を強めています。「北朝鮮は中国に頼っている」「中国は北朝鮮のパトロン」といった表現は、北朝鮮の政策を反映していません。

北朝鮮は中朝貿易がなくても経済的にやっていけるのでしょうか?

宮本:北朝鮮の経済データが整っていないので、よく分かりません。しかし、北朝鮮はもともと貿易をしないで済むように経済政策を立ててきた国でした。だから、先進諸国が推進してきた自由貿易を前提に、北朝鮮の貿易を考えれば大きな誤解が生まれます。今でも、可能であれば貿易しなくても経済的にやっていけるように北朝鮮当局が望んでいることには変わりないと思います。

 だから、中国が北朝鮮のパトロンになっているとの見方は当たっていないと思います。確かに国際価格よりもそうとう安い価格で中国が北朝鮮に提供している物資はあります。しかし、その逆もあるのです。

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