リビア方式は×、トランプ方式なら○

 トランプ氏の「首脳会談中止」に驚愕した北朝鮮は、金桂官(キム・ゲゲァン)第1外務次官の「談話」を発表し、「首脳会談再考」を求めた。「談話」の次の表現から、北朝鮮指導部が追い詰められている状況がよく理解できる。

 「トランプ大統領が、どの大統領もできなかった勇断を下し、首脳会談に努力したことを、内心高く評価してきた」。「金委員長もトランプ大統領との出会いは良い始まりになり得るとおっしゃり、準備に全ての努力を傾けられた」。「いつでもどのような方法でも、向かい合って問題を解決していく用意がある」。北朝鮮側の悲痛な思いが、伝わってくる。

 加えて、この書簡は、「リビア方式」でなく「トランプ方式」なら合意できると示唆している。「『トランプ方式』は双方の懸念をすべて解消し、私たちの要求と条件にも合致し、問題の解決に実質的な作用をする賢明な方策になることを期待していた」

 つまり、北朝鮮側は「リビア方式」という言葉を使わず「トランプ方式」との言葉を使えば、合意は可能だと交渉妥結の方法を教えているのだ。

 リビア方式とは、リビアが核施設を完全に廃棄するのを優先し、その後に、米国が関係正常化や制裁解除などの見返りを与えたやり方だ。この道を選んだリビアはアラブの春のあと崩壊した。

 一方、トランプ大統領は「完全な非核化をすれば、北朝鮮は繁栄する。経済支援や投資が可能だ。北朝鮮の体制は保証する。軍事攻撃はしない」と明言した。この米国の方針を、「トランプ方式」と言えば北朝鮮は応じる、というわけだ。

 トランプ大統領の「首脳会談中止」決断は、米朝双方に「譲歩」と「合意」のムードを生んでいる。北朝鮮では、軍部の圧力を和らげる契機となった。仮に米朝首脳会談が中止されれば、米軍は軍事攻撃に至る。北朝鮮が反撃すれば、全面戦争に発展し北朝鮮は崩壊する。この現実を考えると、北朝鮮軍部は強硬な立場を続けるわけにはいかない。

 これに対して米国は、完全な非核化と核廃棄を北朝鮮が約束し「廃棄作業に着手すれば」、日本、韓国、中国などが制裁を解除するのを認めるといった妥協をすることが考えられる。米国は、米朝平和協定の締結や在韓米軍の撤退を約束するだろう。

 だが、北朝鮮が完全な核放棄に応じるとは、考えにくい。軍部を説得するために、核開発を再開できる可能性を少しでも残す合意にしたいと考えているだろう。一方で米国は、核開発の再開を認めない合意を目指す。「完全な核廃棄」か、核開発再開の芽を残す「非核化」か、をめぐりなお厳しい駆け引きが続く。