首脳会談流れれば軍によるクーデターも

 こうした経緯があったため、もし「米朝首脳会談」が中止になれば、金委員長は軍部や指導層からの信頼を失いかねない。その権威も失墜する。軍部によるクーデターや混乱に直面する可能性も浮上する。だから、「米朝首脳会談」は必ず実現しないといけないのだ。

 北朝鮮国内のこうした状況を理解しているから、金委員長への書簡を書くに当たってトランプ大統領は、礼を尽くした言葉を選んだ。書簡の中で金委員長への「感謝」の言葉を3度も繰り返している。「シンガポールで予定されている首脳会談に対する、あなたの忍耐強い努力に感謝している」。「あなたが(米国人)人質を解放し、家族のもとに返してくれたことに感謝したい」。「(米国人解放は)すばらしい意思表示で、謝意を表する」

 そして最後に、「遠慮なく私に電話をするか、書簡を送ってほしい」と伝えた。金委員長を決して非難することなく、首脳会談再開に含みをもたす書簡だった。

 トランプ大統領に「中止」を決断させたのは、北朝鮮外務次官の「談話」であった。崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は24日 に発表した談話で、マイク・ペンス米副大統領が「軍事攻撃は排除しない」と述べ「核の完全廃棄」を求めたことに反発し、同副大統領を「愚鈍なまぬけ」と名指しで批判した。この品を欠く表現は、北朝鮮軍部の反発がいかに激しいかを、物語っている。米国に対し、これほど激しい「非難」を表明しなければ軍部が納得しない状態にあり、外交当局者は追い詰められていた。

 一方、トランプ大統領は、ペンス副大統領への非難を、自分への攻撃と受け止めて怒った。そしてジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のアドバイスを受け入れて「首脳会談中止」を決めた。だが、前述のように、中止を通告する書簡は丁寧で相手の立場を考慮したものだった。金委員長が、トランプ大統領が「感謝」の意を示す書簡を送ってきたと国内に説明できる内容だった。

 この書簡に気になる表現があった。米朝首脳会談について「北朝鮮側が求めたものだと伝えられたが、それが見当違いだということがわかった」と述べている。

 これは崔次官が談話で「(米国が)対話を請託したにもかかわらず、我々が要請したように世論をミスリードしている」と指摘したことへの返事である。仲介した韓国がなんらかの小細工をしたのではないか、と米朝双方が感じているようだ。