金正恩委員長(左)と文在寅大統領はともに軍事境界線を越えた(写真=アフロ)

約11年ぶりに南北首脳会談が開かれた。金正恩委員長と文在寅大統領は満面の笑みをたたえてハグし合い親密ぶりを示した。米朝首脳会談を米国が決裂させることができない条件が出来上がった。日本は東アジアの安全保障議論で蚊帳の外に置かれつつある。

(聞き手 森 永輔)

4月27日、約11年ぶりに南北首脳会談が開かれました。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は満面の笑みをたたえて何度もハグ。金正恩委員長が文在寅大統領を軍事境界線の北側に招き入れるサプライズも含めて、両者は親密さをアピールしました。一方で、「完全な非核化は『目標』にとどまった。具体的な施策は何もなし」と批判する向きもあります。武貞さんは今回の会談のどこに注目しましたか。

武貞:今回の会談には3つの柱がありました。①朝鮮半島の統一、②朝鮮半島の平和体制構築、③非核化です。中でも比重が重かったのが①と②です。そもそも③は南北だけで決められる問題ではありませんし。

武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏
拓殖大学大学院特任教授。
専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院修了。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベトスセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。

 北朝鮮のメディアが、板門店に向かう金正恩委員長一行の車列を放映しました。いくつもの対戦車障壁をくぐって進む。壁の1つには大きく「自主統一」の文字が躍っていました。「自主統一」の文言を共同宣言に書き込むために、金正恩委員長は板門店に向かっている、ということを北朝鮮国内にアピールしたかったのです。

 日本ではこの①②が持つ重み、さらに、これらが6月に予定される米朝首脳会談にも影響することが理解されていないようです。日本は東アジアをめぐる安全保障の議論に参加できず、不利な環境に置かれる可能性があるのです。

前回のインタビューで、まさに①朝鮮半島の統一こそが主題になるとうかがいました(関連記事「南北会談の主題は「非核化」ではなく「統一」」)。南北が親密であることを、米国や中国に示すことができるか否かが重要になると。ご指摘の通りになりました。

武貞:今回、署名された「板門店宣言」を見てください。最初の文に始まり、全体の分量のうち5分の4以上は①と②が占めています。非核化は最後の最後に登場するだけ。

 北朝鮮と韓国が半島を「自主」「統一」することを再確認したことこそ特筆すべきなのです。「自主」は米国の関与を排除するという意味。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領のときの南北首脳会談で署名された共同宣言に盛り込まれた表現を再度挿入し、「外国の介入を遮断して南北対話で統一する」という悲願達成を誓うものです。

 これから米韓北の間で起こる事象を理解するためにこの構図を説明することは大事です。「南北で」という原則に基づいて北朝鮮は韓国に対し、たたみかけるように援助を要求するでしょう。

 そして南北交流を進めれば、米国は「なぜ韓国と北朝鮮が勝手に事を進めているのだ」と苛立ちを強める。特に、休戦協定を平和協定に転換しようとすれば、一方の主役は国連軍を代表していた米国です。文在寅大統領は米国と北朝鮮の両方に良い顔を見せなければなりません。