朝鮮戦争の平和協定締結を求める?

 金正恩氏のメッセージから、もう一つの疑問が浮かび上がる。「在韓米軍の撤退を求めない」「米韓合同軍事演習を理解する」の言葉は、「朝鮮休戦協定を平和協定に変える」との提案を前提にしないと、「理解」できないのだ。

 「平和協定」が締結されれば、在韓米軍は撤退を迫られる。そこをあえて、「在韓米軍の撤退を求めない」と北朝鮮が述べたので、トランプ氏は首脳会談を即断したのだろう。「在韓米軍の駐留継続」の前に、「米朝平和協定を締結しても」と補うと、金正恩氏のメッセージが意味を成す文になるのだ。

 金正恩氏は、首脳会談の成果が「在韓米軍の駐留継続」「米韓合同軍事演習の継続」では、国民や軍を説得できない。反発を抑えるには、「平和協定の締結」が不可欠だ。これが、金正恩氏が隠したもう一つのメッセージと考えると、全てが繋がる。

オーナー経営者トランプ氏の計算

 北朝鮮の労働新聞は、14日も「在韓米軍の無条件撤退」を求める論評を掲げた。「在韓米軍撤退を求めない」とのメッセージは、なお報道していない。やはり、衝撃が大きすぎるのだ。

 南北首脳会談は、板門店の韓国側施設で行われる。北朝鮮の外交は、各国の指導者や政治家を平壌に呼び、大歓迎とマスゲームで感動させ懐柔するやり方だった。これに対して今回の米朝首脳会談はスウェーデンのストックホルムで行われる、との観測が強まっている。首脳会談を平壌でしたくない事情があるのだろうか。

 韓国の文在寅大統領とトランプ氏が平壌に来れば、世界各国から取材記者が押しかける。記者の取材や行動は、平壌市民を動揺させる。平壌開催では、危険が大きすぎる。会談が失敗しても「成功」と報道しなければならない北朝鮮としては、国外で開催するのが安全だ。

 こうした危険を覚悟して北朝鮮が首脳会談を提案したのは、国連や日米による制裁が大きな効果をあげているからだろう。北朝鮮軍は、世界で最も石油の少ない軍隊である。今年の制裁が実行されれば、確保できる軍事用石油は最大でも40万トンだ。これでは、戦力は維持できない。日本の自衛隊は、戦争を予定しないが年間150万トンの石油を消費している。

 何としても制裁緩和を図らないと、経済と軍事力が弱体化し、体制崩壊の危機に直面する。トランプ氏は、この事情を十分に理解しているようで、ホワイトハウス記者団に「北朝鮮が首脳会談を提案したのは、私が課した制裁の成果だ」と、強調した。

 北朝鮮は、南北首脳会談で開城工業団地の再開について合意し、制裁の緩和を米国に認める戦略だろう。だがトランプ氏は、「非核化実現まで制裁を緩和しない」立場を安倍晋三首相と確認し、北朝鮮の譲歩を引き出そうとしている。

 トランプ氏が軍事行動を選択しない方向を世界は期待するが、トランプ氏は繰り返し「軍事行動の選択」に言及している。会談が成功すれば、自分の業績を誇示する機会にする。失敗しても軍事攻撃の口実にできる。どちらにころんでも損はない計算だ。

 トランプ氏は、オーナー経営者型の大統領だ。オーナー経営者は、自分の判断と決断に自信を持ち、部下の言うことを聞かない。金正恩氏を説得できる、と考えている。