
北朝鮮は、平昌冬季オリンピックで世界を驚かせるサプライズを準備していた。金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹・与正(ヨジョン)氏とマイク・ペンス米副大統領との「準首脳会談」だ。
ところが、北朝鮮はこの会談を直前に拒否した。北朝鮮外交の幕開けは華々しかったが、氷は溶けなかった。最後は、突如として訪韓した金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長の「米朝対話に、十分な用意がある」という悲痛な叫びで幕を閉じた。
北朝鮮の「五輪工作」の目的は、①南北首脳会談②米韓合同軍事演習中止③制裁の緩和――であった。
北朝鮮は、韓国を「外交」の相手とみていない。あくまでも「統一工作」の対象だ。このため、工作の責任機関である統一戦線部の金英哲部長が、外交大敗北を収拾するために訪韓せざるを得なくなった。
ペンス・与正会談が実現していたら、国際政治に大きな衝撃を与え、南北首脳会談実現に踏み出していただろう。北朝鮮はなぜ会談の2時間前に突然、拒否を伝えたのか。理由は明らかでない。
メディアは、ペンス副大統領が会談直前に①脱北者と会見②北朝鮮の魚雷で撃沈された韓国艦艇の残骸を見学――を不快として、会談を拒否した可能性を指摘した。北朝鮮は、こうした行動を取ることなしには与正氏と会談できない米国の事情を理解できなかったのか。ペンス副大統領は、人権問題とテロに言及しなければ、米国内で批判にさらされる。安倍晋三首相との接触や同席を、米側が北朝鮮に打診したことを理由に挙げる情報もある。
会談拒否は、金与正氏本人か金正恩委員長しか決断できない。そうさせる情報を、誰かが伝えたのだ。「ペンス副大統領が強硬な要求をする」と韓国側が統一戦線部に伝えたのかもしれない。
南北首脳会談は米朝対話の後
外交大敗北の背後には、北朝鮮の誤算があった。これまでの2回の南北首脳会談は、韓国と北朝鮮の双方が合意すると日米は反対できなかった。今回は、米国が「米朝対話の前に南北首脳会談しないように」と条件を付けた。さらに日米は「対話のための対話はしない」「非核化に向かう一歩でないと対話しない」と対話の条件のハードルを上げた。
南北双方は、ペンス・与正会談で米朝対話が実現すれば、首脳会談に踏み切れると考えたが、失敗した。金英哲部長は「対話の扉は開かれている」と繰り返し、韓国の文在寅大統領は「米国は対話のハードルを下げるべきだ」とまで述べた。「南北合同作戦」の失敗を認めたわけだ。
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