
北朝鮮と韓国による南北朝鮮会談が1月9日に、2年ぶりに行われた。これまで何度も対話が繰り返されたが、合意は守られず非核化も進展しなかった。会談の結果は、北朝鮮の「完勝」で韓国の「完敗」だ。北朝鮮は「国家の正統性」を維持するとともに、「米国の軍事攻撃」を阻止するメドを立てることができた。北朝鮮は平昌オリンピックに参加しないと、「国家の正統性」を失い崩壊に向かう可能性があった。その苦境を、韓国が救った会談だった。
会談後に、南北双方は「共同報道文」を発表しただけで、「合意文書」や「共同声明」は発表しなかった。文書を交換したから、「合意文書」は存在するはずだ。それを、法的拘束力のない「報道文」にした。なぜか。合意文書とすれば、韓国を国家として認めることになってしまうからだ。
北朝鮮は、韓国を「国家」として公式には認めていない。南に存在するのは「米国の傀儡政権」で、「正統性のない国家」との立場だ。「共同報道文」は、オリンピックを「南側地域で開催」と表記するだけで、「韓国」の言葉は使っていない。「大韓民国は存在しない」という、北朝鮮が作ったフィクションを認める「ごまかし」を前提に会談は行われた。
朝鮮半島で最重要価値は正統性
今回の南北交渉の背景に隠されたカギは、北朝鮮の「正統性」であった。日本では想像できないが、平昌冬季オリンピックに参加しないと、北は「国家としての正統性」を失う危機に直面していた。それゆえ、北朝鮮は参加せざるを得なかったのである。
朝鮮半島の政治文化では、「正統性」が最も重要な価値観になっている。「正統性」は、国家や指導者の「合法性」を判断する言葉だ。現代では、「自由選挙」と「民主主義」が正統性の根拠になる。儒教文化では、中国の皇帝に認められた国家と指導者に「正統性」が与えられた。
北朝鮮は、国家としての正統性の根拠を「金日成主席が日本帝国主義と戦闘し勝利した」事実に置く。「日本帝国主義と戦闘していない韓国に正統性はない」との立場だ。
いっぽう、朴正煕政権をはじめとする韓国の政権は、中国に亡命した「大韓民国臨時政府」を正統性の根拠にしてきた。朴正煕政権の正統性を否定したかつての学生やインテリは、北朝鮮が持つ正統性にあこがれた。これが、韓国左翼の原点である。文在寅大統領と側近たちは、北朝鮮の正統性に憧れた人々で占められている。
韓国で最も高い評価を受ける朴正煕氏も、大統領在任中は「正統性がない」と常に批判された。日本軍に軍人として加わった経験を持ち、クーデターで政権を獲得した経緯から「正統性がない」と言われ続けた。全斗煥大統領も、正統性を問題にされた。
韓国と北朝鮮は、儒教文化の国である。中国から学んだ儒教の価値観が、骨の髄まで染み込んでいる。筑波大学の古田博司教授(朝鮮文化論)によると、日本は儒教国家ではない。韓国は儒教の教えを100%受け入れたが、日本は30%しか受容しなかったという。朝鮮半島では、親の前では酒もタバコもだめだ。年上の人には、必ず敬語を使う。行動と思考の全てが、儒教の価値観に支配されている。韓国は儒教的民主主義国家であり、北朝鮮は儒教的社会主義国家である。
Powered by リゾーム?