──なぜ、不安が世間を覆ってしまったのか。

藤井:発端は、7月に実施された東京都知事選挙だろう。豊洲市場問題は、選挙において争点の1つになった。小池百合子氏と東京都という戦いの構図が作られ、マスメディアもこの問題に飛びついた。小池新都知事は当選直後、「確認して結論を出す」と宣言した。その後、豊洲市場で地下ピットの存在が発覚すると、マスメディアと世論は「やはり出たか」という心理になる。

 人間は、自分の考えの辻つまを合わせようとする。これまで「隠蔽」「基準値超」などと報道し続けていたマスメディアは、冷静に考えたら問題なかったと前言撤回をしにくい。連日の報道によって、安全性を非難し続けてきた市民も、振り上げた拳の下ろしどころがなくなっている。こうなると、わずかな問題点を探し出し、それを責め立てるという行為に及ぶ。これが人間の心理だ。

──不安を払拭するために、今後どのような対策をとるべきか。

藤井:いったん何かのリスクが気になりだしたら、些細なことで大騒ぎしてしまうのは、リスク心理学という学問の中でよく知られている事実だ。過剰にリスクに怯え、絶対に達成できない「ゼロリスク」を求めてしまう。こうなると、冷静な技術論はなかなか耳に届かない。しかし、100%安全というのは何に対してもあり得ない。風評被害が残ることが心配だ。

 今は、報道が過熱して「炎上」している状態だ。東京都は、落ち着いた時期を見計らい、地下ピットの安全性や基準値の意味など、技術的な根拠に基づいた説明をすべきだ。

健康リスクの冷静な検証必要

 中西氏と藤井氏によれば、豊洲市場の安全性について現時点で深刻なリスクは考えにくいという。その根拠として挙げているのが、盛り土はないものの既に十分な土壌汚染対策が講じられており、検出された有害物質の濃度は直ちに人の健康に被害を及ぼすレベルではないというものだ。

 都は現在、詳細を調査中ということもあり、安全性に関して明言していない。なぜ盛り土がされなかったのかという意思決定のプロセスが曖昧な点ばかりに目が向き、国民は安心できないでいる。この状態が長引けば、「豊洲には問題がある」といった風評被害が広がりかねない。

 インターリスク総研事業リスクマネジメント部環境・社会グループマネジャー・主任研究員の原口真氏は、「盛り土がない現在の状態でどの程度のリスクがあるのか検証する必要がある」と言う。

 莫大な費用をかけて建設した施設が使われなかったり、豊洲の食品が飲食店や小売店で扱われにくくなったりするようなことがあれば、国にとって大きな損失になるとの指摘もある。築地市場の跡地には東京五輪関連の道路が建設される予定で、豊洲市場への移転が滞れば、五輪の開催にも影響を及ぼしかねない。

 豊洲市場の安全性について、都は早急に技術的な観点から健康被害のリスクを検証し、国民に説明することが求められている。