日本企業が、インドでCO2削減プロジェクトに乗り出す。東京電力ホールディングスや横河電機などは経済産業省とともに、IoT(モノのインターネット)技術などを生かした再生可能エネルギーの導入拡大や、電力や鉄鋼などエネルギー多消費産業の省エネを提案する。
10月12日、経産省はインド・ニューデリーでワークショップを開く。インド政府・企業と、日本からは経産省や企業の他、経団連や業界団体が参加し、具体的な事業への展開を目指す。まずは日本政府や国際金融の資金支援などを得ながら第1号プロジェクトの展開を狙い、途上国でのビジネス拡大につなげる。9月14日、安倍晋三首相がインドを訪問してモディ首相とまとめた共同声明にも織り込んだ。
インドで太陽光が拡大、系統安定の技術を提案へ
2016年に発効した「パリ協定」は、世界の国々が温暖化対策に取り組むことを求めている。
日本はパリ協定の下、国内でCO2などの削減に取り組むのに加え、省エネ型の技術や製品、サービス、そして再エネ関連技術などを途上国をはじめとする他の国に売り込み、普及させることで、世界規模で温暖化対策が進むことに貢献する考えだ。
インドのワークショップで、その口火を切る。経産省の構想はこうだ。日本とインドなど途上国の2国間で、企業や政府が参加する「エネルギー多消費型産業IoT化推進会議(仮称)」を設置する。企業の主導により、技術や製品、サービス、システムなどを途上国企業に提案し、事業化につなげる。
インド・パンンジャブのメガソーラー(写真:インド新・再生可能エネルギー省)
最初の舞台となるインドは、再エネの導入量が毎年、著しく増大している。特に出力が不安定な太陽光や、風力の導入が急ピッチで進む。インド政府は2022年に100GWの太陽光と60GWの風力を導入する目標を掲げている。一方で、送電システムがぜい弱で、停電が日常化している。政府目標を達成するには、系統を安定的に運用できる技術が不可欠だ。
再エネの大量導入に応える系統安定化のため、東芝と東京電力ホールディングスの共同出資会社、T.T. Network Infrastructure Japanがワークショップで技術を売り込む。
他に太陽光発電用パワーコンディショナー大手の東芝三菱電機産業システム、太陽光パネル清掃ロボット開発の未来機械(岡山県倉敷市)が参加する。既存の他国製設備を使った発電所も、日本の技術を追加採用することで発電効率の改善や、適切な運用・保守による延命化、発電事業収益の改善を図れることを示す。
日本の経験を大きく上回る勢いで、太陽光や風力など「不安定電源」の導入が一気に進むインド。系統や発電設備を運用・保守する高度な技術が蓄えられている日本と比べて、“異次元”とも呼べるインドの環境で再エネの安定的な活用を目指す。日本の企業にとっても、「チャレンジング」な取り組みとなりそうだ。
インドでは化石燃料の消費も10年で1.5倍増のペースで拡大している。石油精製設備や火力発電所、製鉄所などでも既存設備のエネルギー効率改善に役立つIoTシステムなどの導入を提案する。IoTによるプラントの運用改善は、富士電機や横河電機、火力発電の効率改善は東京電力フュエル&パワーが提案する。
これまでも、日本は企業の技術を生かして途上国の温室効果ガス削減に貢献する「二国間クレジット制度(JCM)」を推進してきた。インドネシアやタイ、ベトナムなど途上国を舞台に、省エネや再エネ導入プロジェクトが進められてきた。JCMでは、日本が投じた資金支援額に応じて「排出枠」を獲得している。
途上国に「収益改善」のメリットを実感させる
過去のJCMなどではばく大な初期投資を伴う「機器売り」事業が大半だった。今回は機器売りだけでなく、途上国の既存設備も生かす。プロジェクトの実施に伴う初期投資を抑えながら、日本が得意とする運用や保守によるシステム・サービス提案によって、省エネや再エネ活用、系統安定の技術移転を目指す。
インド企業にとっては、追加投資を抑えながら事業収益が改善できることを実感できるメリットがある。日本企業も、プロジェクトを通じて途上国で実績を上げれば、技術の優位性をアピールできる。その地での新たなビジネス展開にもつなげる。
インドからは電力省などの関連省庁、電力や石油、鉄鋼、セメントなどの大手企業が参加する。今後、東南アジアなどで協力国を増やす。経産省によれば、今回の取り組みでは途上国での対策推進を優先し、必ずしもJCM事業化や排出枠の獲得にこだわらない。国際機関の協力を得ながら、簡易で適切な削減量の把握方法も検討する。日本のパリ協定への貢献の第一歩となる。
JCM事業は経産省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、環境省が推進してきた。2010年、国が企業に委託する実現可能性調査が始まった。ところが、その削減効果は限られていた。今年5月までに登録されたJCM事業は政府全体で18件。事業ごとの削減量は年間で数十tから数万t規模だ。
パリ協定が求める世界の低炭素化には、さらに規模の大きな削減が必要だ。今後は、額が限られる政府のJCM予算に限定せず、民間企業が政府開発援助(ODA)や国際協力銀行など政府資金、世界銀行やアジア開発銀行、緑の気候基金(GCF)など国際資金を活用して事業を展開する中で、低炭素技術が途上国に移転されることを促す方が効果的といえる。
途上国に対する低炭素技術の移転や普及に日本は長年、腐心してきた。とはいえ、削減効果や、技術を有する産業界の利益に、必ずしも結び付かなかった面もある。今度こそ、実のある低炭素技術移転の仕組みを確立できるか。日本の「本気度」が試されている。
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