女性初の東京都知事として注目を集める小池百合子氏。選挙期間中は、環境・エコを表すグリーンの「戦闘服」に身を包み街頭演説した。小池知事は、環境大臣を務めていた2005年に「クールビズ」を提唱。「日本の男をネクタイから解放した」と言われるほど、政府の普及啓発活動としてまれに見る成功を収めた。
都知事に就任した現在は、「新しい東京」として、安心・安全な「セーフ シティ」、すべての都民が活躍できる「ダイバーシティ」、環境・金融先進都市の「スマート シティ」の3つのシティの実現を掲げる。クールビズで多くの国民の意識を変えたその手腕は都政にどう生かされるのか。
環境を軸に据えた成長戦略について聞いた。
(聞き手は相馬 隆宏)
環境・金融先進都市「スマート シティ」を東京都のビジョンに掲げています。環境を東京や日本の成長にどう結び付けていくのですか。
小池:「セーフ シティ」「ダイバーシティ」「スマート シティ」の3つのシティのうち、スマート シティは成長戦略と位置付けました。2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控えていることもあって、東京は環境先進都市であるということを高らかにうたいたい。
私が環境大臣だった当時もそうでしたが、環境というと物事を縮小するイメージがあり、ときにデフレを促進するのではないかと言われることがあります。しかし、日本はエネルギー・資源小国であることをむしろバネにして、環境・エネルギー技術を研ぎ澄まし、ものづくりなどで競争力を高めてきたという経緯があります。
小池百合子(こいけ・ゆりこ)氏
1952年兵庫県生まれ。76年10月カイロ大学文学部社会学科卒業。92年7月参議院議員、93年7月衆議院議員、2003年9月環境大臣、2007年防衛大臣、2016年7月東京都知事当選。 (写真:鈴木愛子、以下同)
47都道府県の中でもCO2排出量が多い東京で、省エネ、創エネ、さらに大気や水の浄化といった技術に制度や予算をうまくつなげていくことによって、経済の好循環や人々の生活の安心に結び付ける。これをぜひ実現したいと思っています。
東京は、「キャップ・アンド・トレード(排出量取引制度)」をはじめ様々な環境政策を実施し、成果も上げている状況で、発射台は既に高い所にあります。さらに高みを目指すために、リーダーとしてビジョンを示すとともに、これから目標数値を設定していきます。メガシティーで環境対策を進め、実績と知見を蓄え、世界に広めていく役割を担いたい。
ピンポイントで刺激する
環境先進都市とは、どんな姿をイメージしていますか。
小池:具体的にお話しすると、LED化を進めます。日本エネルギー経済研究所が2011年に発表した資料によると、国内には蛍光灯や白熱灯といった照明器具が16億個あるそうです。既にLEDに替わったものもあるけれど、16億個の照明をLED化すると、13基の原子力発電所が不要になるといいます。現在は、LEDの効率が当時より良くなっていますから、省エネ効果はさらに大きくなっているかもしれません。
照明は身近なものでありながら、意外に気付いていないCO2の発生源です。そこでどうやってスムーズにLEDに移行できるようにするか。既に購入費の補助制度などがあるけれど、もう少しできることをやっていこうと思います。ロンドンのケン・リビングストン元市長は、白熱電球を持ってきた人に電球形蛍光灯をあげるという施策を実施していました。同じことができるかどうか分かりませんが、いろんな工夫はできると思います。
とにかくピンポイントで刺激していきたい。私はいつもピンポイント。(ネクタイや上着を着用しない夏季の軽装を提唱した)クールビズもそうでした。CO2の排出削減というと話が大き過ぎて、皆、他人事だと思ってしまいます。けれど、「あなたの企業、あなたのおうちの照明はどうなっていますか」と、現状をチェックしてもらい、それに加えて「LEDにはこんな効果があります」とPRしていく。例えば、電気代がこれだけ安くなりますといったプレゼンテーションをピンポイントですると訴求力がとても強まります。家庭から企業、それも大中小という形で狙いをしっかり定めることできっと効果が出てくるはずです。
クールビズもそうでしたが、環境対策は意識改革によるところが大きい。環境に悪い活動をしている企業は社会的な制裁を受ける状況になり、IR(投資家向け広報)を展開するとともに立派な環境報告書を作るところも増えています。スチュワードシップ・コード(金融庁がまとめた機関投資家の行動原則)などが導入され、企業の行動は変わってきています。これを中小企業にまで広めていくためにはどうすべきかを考えていきたい。
楽しくなければ人は動かない
環境先進都市の実現に向けてまずはLED化から取り組む。全般的に環境政策を進めていく上で何がポイントになりますか。
小池:環境政策で何が一番効果があるかというと、規制なんです。それから税。人の行動パターンを変えていく一番強力なツールですが、これらは言ってみれば(イソップ童話「北風と太陽」に登場する)「北風」です。しかし、私はいつも「太陽」でいきたい。皆がハッピーに、楽しくなれることが大切です。やはり、自分にとってプラスアルファのメリットがないと誰も動きませんからね。
都知事選挙で起きた(緑色のものを身に付けて街頭演説を聴きにくる)「百合子グリーン」のムーブメントも、皆が楽しんでやっていましたよね。何でも締め付けるのではなく、楽しく、自分も参加しているという意識を持てるようなことをやりたい。個人単位では小さな話かもしれませんが、東京全体となれば効果はばかになりません。
CO2排出量は、経済が不調になったら減るんです。けれど、それでは不健全。だから、環境対策を成長戦略と位置付けて、省エネ器具などが企業や家庭に広がる流れを作りたい。イノベーションとそれを促すための制度、意識改革の3点セットを頭に入れながら進めていきます。
小池さんは、期日を決めて取り組むことが重要だとおっしゃっています。環境政策では、いつまでにどうする計画ですか。
小池:ロードマップはこれから精査しますが、大事なのはバックキャスティングで考えることです。環境対策は予防的措置という位置付けで、今、対策を実施しなければ自然災害の拡大などによって、何もしなかった場合より被害が大きくなる。その経済損失などを示した「気候変動の経済学(スターン・レビュー)」(2006年10月発表)もバックキャスティングの考え方を基本にしています。
東京は、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比30%削減する目標を設定しました。2030年までに2013年比26%(2000年比25%)削減するという日本政府の目標を上回るより野心的な目標ですが、これを今やろうとすると卒倒しますよね。しかし、2030年から遡って現在どうするかというふうにかみ砕いていくことで道筋が見えてくる。
このほか、気候変動対策に取り組む先進都市が結成した「C40」というグループにも参加しています。その中で東京は主要プレーヤーとして、例えばアンヌ・イダルゴ市長が率いるパリなどと切磋琢磨しています。高い目標を掲げ、高い実績を出していきたいですね。
■変更履歴
記事掲載後に発言内容に誤りがあったと連絡を受け、2ページの発言上から9~10行目、「ボリス・ジョンソン前市長は、白熱電球を2個持ってきた人にLED電球を1個あげる」は、「ケン・リビングストン元市長は、白熱電球を持ってきた人に電球形蛍光灯をあげる」に修正しました。 [2016/08/25 18:20]
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