食品廃棄物の削減・処理と、リサイクル、再生可能エネルギー発電による売電の“一石三鳥”を狙う技術が普及し始めた。工場や、飲食店から出るバイオマス(生物資源)である生ゴミを使う「バイオガス発電」だ。
焼酎作りの「最終工程」
「バイオガス発電は、イモ焼酎作りに欠かせない工程」と、霧島ホールディングス経営計画室顧問の黒木尚之氏は話す。
「黒霧島」「白霧島」など全国で人気を集める焼酎などを製造、販売する霧島酒造は、製造工程から出るサツマイモのくずや焼酎かすを使って発電している。
発電までの流れはこうだ。霧島酒造は1日に一升瓶で16万本に上る規模を製造するため、約340tの南九州産サツマイモを使う。傷や変色があるイモは、焼酎の味わいに雑味が生じる原因になるため選別する。選別ではじかれたイモのくずは毎日、平均して約10t出るという。
焼酎作りに使うイモを蒸し、コメから作る麹とともに仕込んで蒸留すると、焼酎ができあがる。蒸留工程では「もろみ」が残る。これを絞ったものが焼酎かすだ。かすの量は毎日約650tに上る。
イモくずを粉砕して焼酎かすと混ぜ、工場敷地内のメタン発酵槽に投じる。混合物にはメタンの生成に欠かせない炭化水素系の成分が豊富に含まれる。温度を55℃程度に保った発酵槽内で、微生物のメタン菌の働きにより炭化水素が分解され、メタンガスが発生する。その量は1日平均約3万立方メートルに及ぶという。
メタンガスを燃料に使い、同じ敷地にあるバイオガスエンジン発電機で発電する。電気は、再エネ電気の固定価格買い取り制度(FIT)の下、九州電力に売る。年間約700万kWhの発電実績があり、1kWh当たり39円(税抜き)で買い取られる。年間売電収入は約2億5000万円に上る。
発酵槽には、汚泥混じりの液体(消化液)が残る。汚泥は取り出して乾燥させ、肥料にリサイクルして販売している。液体は基準にのっとって浄水され、下水道に排水する。
霧島酒造では、工場で発生するほぼすべてのイモくずや焼酎かすをメタンガスにリサイクルする。かつては、製造工程で発生する焼酎かすを畑にまき、肥料として再利用していた。しかし2003年の廃棄物処理法改正により、焼酎かすを農地にまくと不法投棄と見なされるようになった。大量の焼酎かすを、外部委託しようにもこれだけの規模を受け入れられる産廃処理業者はなかった。
霧島酒造は改正をきっかけに焼酎かすの処理を始めた。2006年には毎日400tの残さを処理できる発酵槽を導入し、リサイクル事業を始めた。2011年には800t規模に拡大し、総額で約50億円の投資となった。当初は発電機はなく、発生したバイオガスはボイラー燃料にして熱を作り、蒸留や汚泥の乾燥に使った。
FIT施行後の2014年には13億5000万円を投じて3基で合計出力1905kWとなるバイオガスエンジン発電機を導入した。発酵槽などは設置済みだったため7~8年程度での投資回収を見込む。ただし、ガスエンジンの耐用年数が10年程度とみられ、更新が必要になる可能性がある。
2000年代にイモ焼酎の人気が高まったことで、霧島酒造は生産規模を拡大してきた。同社生産本部グリーンエネルギー部の田原秀隆部長は、「焼酎製造事業の拡大に伴い、廃棄物の発生量も日々増大していた。発電を含むリサイクル工程が止まると、焼酎の生産工程も止めざるを得ない。事業拡大のために、廃棄物を適正処理できるリサイクルと発電が欠かせなかった」と話す。
“うどん発電”が生まれた事情
霧島酒造は廃棄物の発生量が多いのが特徴だ。しかし小規模でも、バイオガス発電で一石三鳥を狙える。
讃岐うどんで注目される香川県。高松市の建設機械メーカー、ちよだ製作所は1日当たりの廃棄物処理量を数tに抑えたバイオガス発電プラントを開発、販売している。
香川県にはうどんを出す店が800軒以上あるという。その多くで、客を待たせずにゆでたてを提供するため、ゆで上げから30~40分経ったうどんが廃棄されている。その量は年間推計6000tに達する(うどんまるごと循環コンソーシアムの推計)。
ちよだ製作所の敷地の一角では、地域のうどん店などから集めた食品廃棄物を使う発電プラントが稼働している。うどんや天ぷら、おにぎり、ネギなどの野菜、肉、近隣にある食品工場から出た食品残さも使う。
地域の運搬収集業者が飲食店や食品工場を回って収集し、ちよだ製作所は毎日最大3tを受け入れる。発酵しやすくするため廃棄物を細かく処理した後、総量で6t程度になるまで地下水を投入して発酵槽に投じる。37℃に保った槽内で、微生物の働きで30~35日程度をかけてメタンガスを生成する。
毎日3tの廃棄物を受け入れた場合、発生するメタンガスは1日約360立方メートル。出力25kWのバイオガスコージェネレーション(熱電併給)システムで発電し、FITを活用して四国電力に売る。発電量は1日約600kWh、年間では約18万kWhになる。コージェネの排熱は発酵槽や前処理工程の加温に使う。
槽内には窒素やカリウムなどの栄養が豊富な汚泥と消化液が残る。液体肥料として販売する他、不要な水分は浄化して排水する。
■ 飲食店などの廃棄物を使う「うどん発電」
街のうどん店や食品工場などから排出された食品の残さ(左)を処理した後、メタン発酵槽(右)に投入する。発酵槽はちよだ製作所が設計、建設を手がける
ちよだ製作所は2004年、バイオマスからメタンガスを生成するメタン発酵プラントの販売を始めた。技術が評価され、国や香川県、産業技術総合研究所などと協力して食品廃棄物由来のバイオガスを発電に使う技術や、廃棄うどんを使うバイオエタノール生成技術の開発に取り組んだ。
2011年からは廃棄うどんのリサイクルを促す県や市、地元NPOらと協力する「うどんまるごと循環コンソーシアム」に参加している。
ちよだ製作所 技術開発営業の尾嵜(おざき)哲夫氏は、「自社が販売する小規模のメタン発酵・発電プラントを販促するため、その実例としてうどん発電を実施している」と狙いを話す。
食品リサイクルが求められる食品メーカーや飲食店を潜在顧客として想定し、1日の処理量として他社がほとんど参入しない3tや5t、10tの小規模プラントを提案している。コストを抑えるため、発酵槽などの設備は自製した。国内で広く売られる汎用的な部材を使うため、設備導入費や保守費を安く抑えられる。
試算では毎日3tの食品廃棄物を処理して日量360立方メートルのメタンガスを発生させると、FITの活用により年間約700万円の売電収入を得られる。廃棄物処理費も不要になるため、顧客の投資回収年数は8年程度が見込まれる。処理規模が大きくなるほど投資回収は早まるという。
凍り豆腐・油揚げ工場では排水で発電
バイオガス発電に使えるのは、固形分の多い廃棄物だけではない。メタン発酵しやすい条件がそろえば、工場などからの排水も使える。
凍り豆腐(高野豆腐)や油揚げなどを製造するみすずコーポレーション(長野市)は、排水の処理にメタンガス発電を組み合わせている。
凍り豆腐や油揚げは、豆腐を加工して作られる。大豆から作った豆乳ににがりを混ぜ、凝固した豆腐を取り出した後には、大豆成分や豆腐のかけらなどが混じる温水が残る。毎日6500tにもなる温排水を、メタン菌の働きやすい30℃以上の温度に冷やし、排水中の有機成分を分解するメタン発酵により、排水を放出できるように浄化する。
みすずコーポは1992年に排水処理の目的でメタン発酵槽を導入した。メタン発酵により副生物としてメタンガスが生じる。同社でリサイクル管理部部長とロス削減対策部部長を務める松本立旨氏は「排水に含まれる成分とその濃度、排水の温度から、微生物の働きを生かすメタン発酵による浄化技術が適していた」と話す。
メタンガスの使い道があるかどうかも、導入を検討する際のポイントになる。同社はFITの施行前はメタンガスをボイラー燃料に使い、豆乳の製造や、油揚げ製造工程の油の加温、加熱殺菌などに使った。2013年かにバイオガスエンジン発電機を導入してからは発電燃料にも使うようにした。FITの活用により中部電力に売電している。
現在、出力合計275kWになる11基の発電機が稼働している。年間発電量は150万~160万kWh規模で年間売電収入は6000万円程度となる。現在は1日に約3500立方メートルのメタンガスが生成されている。
松本部長は、「工場からの排水や廃棄物をただ排出するのではなく、リサイクルして発電やボイラー燃料として使い尽くせば、資源の有効活用になり、コスト削減にもなる。CO2を排出しない再エネの売電は、地域社会への貢献になる」と話す。
大量に発生する食品ロスへの関心が高まっている。昨年は、食品廃棄物の不適正処理事件が世間を騒がせた。廃棄物の有効活用や適正処理が社会課題として認識され始めた今、コストメリットの高いバイオガス発電が、食品メーカーや飲食店の注目を集めそうだ。
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