オバマ前大統領は2016年、パリ協定への批准について議会の同意を得ず、大統領権限を駆使して手続きを進めた経緯がある。こうした事情を逆手に取り、「パリ協定に批准するかどうか」をこれから改めて議会の採決にかけるわけだ。

 上院がパリ協定の批准を「可決」するには100ある議席のうち3分の2以上の賛成が必要になる。温暖化対策に消極的な共和党が52議席を占めるため、パリ協定の批准を改めて諮れば「否決」の公算が高い。そうなれば、「前政権の手続きを違法と捉え、国連に対し『締結の撤回』を通告することになるかもしれない」と上野主任研究員は説明する。「締結の撤回」が受理されれば、トランプ政権の思惑通りとなる。

 しかし、「国連が撤回を受理できるのか、疑問が残る。受理できなければ通常の脱退手続きに従い、2020年11月まで脱退できない」と、上野主任研究員は話しこう続ける。「次期政権への影響も気になる。パリ協定に復帰しようとしても、上院で一度否決されたものを、大統領の権限だけで再加入できるのか分からないからだ」。上院に再度、パリ協定への批准を諮った場合に、上院の議員構成によっては「否決」され、復帰が遠のく可能性が残る。

企業や自治体は「パリ協定支持」を表明

 一方の米国企業は、政権の決断を尻目に、低炭素型のエネルギーや技術、ビジネスの開発・展開、自社の工場・オフィスにおける温暖化対策、CO2を排出しない再生可能エネルギーの活用に意欲をみせている。

米アップルのデータセンターに電力を供給するメガソーラー(写真:米アップル)

 演説から週末を挟んだ6月5日には、1200以上にも及ぶ米国の自治体・組織が「We are still in(われわれはいまだ(パリ協定に)留まっている)」と声を挙げた。ニューヨークやピッツバーグなど129の都市、カリフォルニアなど9つの州、183の大学研究機関に加え、アップル、アマゾン、グーグル、マイクロソフトのほか、テスラやユニリーバなど902の企業や投資家が「1億2000万人のアメリカ人を代表して」賛同を示した。

 

 グーグルやアップルは、電力消費量の100%を、CO2を排出しない再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100」という企業連合にも参加。また、ウォルマート・ストアーズやデル、コカ・コーラ・エンタープライズなど米国企業44社は、今世紀末の気温上昇を産業革命と比べて2℃未満に抑えるため大幅な温室効果ガスの削減目標を掲げている。

 こうした企業は、パリ協定が言及する長期の温暖化対策を支持し、その達成に貢献しようとの考えだ。2015年のパリ協定の策定でも、米国に拠点を置くグローバル企業などが国際社会の議論をリードし、立役者となった側面があった。

 政権はパリ協定から一時撤退するも、民間の努力により米国や世界の温暖化対策の進展に大きな爪痕は残さなかった――。後から振り返り、そう安堵できることを期待するばかりだ。