大統領選は米国の温暖化対策をどう変える

 これまでも先進国が二分論による差異化を避けようとするほど途上国が資金支援の強化を求めるなど、2つの論点は「トレードオフ」の関係にあった。COP21では互いの主張に妥協点を見いだし、すべての国の合意が得られる絶妙なバランスをパリ協定に体現した。背景には議長国フランスの手腕があった。

 COP21の2週目後半、フランスは「コンサルテーション会合」や個別の面会を通じて、締約国の主張をよく傾聴し、自ら筆を執って協定案を修正する作業を繰り返した。フランスは支持が広がらない主張を唱える国にも耳を傾ける姿勢を示し、その主張を削ぎ落とすのではなく、表現を調整して残す手法を採用した。その結果、議長が示した協定の最終案への支持が広がり、採択に至った。

米国大統領選が今後を左右

 義務付けの有無については、米国に配慮した。オバマ政権は議会に諮らずに大統領権限を行使し「単独行政協定」として締結(受諾)することを目指している。そのためには協定が締約国に求める義務を米国内法や締結済みの条約などの既存法の範囲にとどめる必要があった。

 こんな一幕があった。議長国が示した協定の最終案には、義務付けを示す「shall」という助動詞を使って「先進国は総量削減を継続する」という条文が盛り込まれていた。しかし採択間際、「テクニカルなミス」として義務を意味しない「should」に差し替えた。元のままならば、米国の既存法の範囲を超え、大統領権限による参加は難しくなっていた。

 果たして米国の参加は実現するか。2月1日、アイオワ州を皮切りに米国各州で大統領選の候補者選び(予備選)が始まった。11月8日には大統領選となる。3月31日の米中共同声明からも明らかだが、オバマ政権は協定に署名した4月22日以降、選挙が本格化する前に協定を締結するだろう。

 一方、民主党と共和党のどちらの大統領が誕生するかが、2017年以降の米国の参加継続を左右する。

 米国の世論調査を集約する米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によれば、共和党候補の支持率1位はトランプ氏で、クルーズ氏とケーシック氏が後を追う。

 トランプ氏に対しては、民主党で優勢のクリントン氏が世論の支持で上回る。オバマ大統領の温暖化対策を継承するクリントン氏は、カナダとメキシコを巻き込んだ北米気候変動合意を提唱し、3カ国で協調して野心的な目標を掲げるとしている。COP21での合意は、米国など現在2025年目標を掲げる国に対し、2020年に新規目標(2030年目標を想定)を提示することを求めた。つまり今年当選する大統領が2030年目標を決める。オバマ政権は2025年までに温室効果ガスを2005年比で26~28%削減する目標を掲げ、これは2050年に80%以上削減と整合的としている。2つの数字を直線で結ぶと2030年には37~38%以上の削減となる。

 一方、共和党側の候補は気候変動対策に否定的または消極的である。予備選でトップを走るトランプ氏は環境行政を担う環境保護庁の予算を大幅削減すると発言している。クルーズ氏は人為的な気候変動の否定論者として知られており、報道によればCOP21直後に、大統領に選ばれた際には協定から離脱すると発言した。ケーシック氏は人為的な気候変動を認めつつも、その寄与度については不明との立場である。共和党政権になった場合、離脱や、協定に残ったまま目標を弱めるなど、路線変更があるだろう。

 協定は締約国の数が55カ国以上、排出量が世界全体の55%以上という2つの条件を満たすと、その3か月後に発効する。米国が離脱した場合、中国とロシアが締結を遅らせると3カ国だけで世界排出量の45.51%となり、他のすべての国が締結しても協定は発効しない。他方、米国が離脱しても中国が参加すれば発効を阻む「45%」の形成は難しく、今回の米中共同声明には、発効の見通しを大幅に高める効果があった。しかし、米国が発効前に離脱すると、55%に到達するまでにかなりの長い時間を要すると予想される。