スマホアプリでデザイン学ぶ

環境損益計算書を、デザイナーの教育にも活用していると聞きます。

ダヴー:デザインを学ぶ学生向けに、スマートフォン(スマホ)で製品の環境負荷を計算できるアプリケーションを開発しました。環境損益計算書の簡略版のソフトです。学生が服やバッグをデザインする際、スマホ画面でパーツごとに原材料や生産地を選ぶと、最終製品の環境負荷が金額で算出される仕組みです。原材料を選ぶのに役立ちます。若いデザイナーが原材料や調達先に責任を持ってもらいたいと考えて作りました。

スマートフォンでデザインされる以前の製品別の環境負荷を知る
スマートフォンでデザインされる以前の製品別の環境負荷を知る
デザインを学ぶ学生用のアプリケーションを開発した。スマートフォンの画面で「服」「ハンドバッグ」「指輪」「靴」から製品を選び、原材料や生産地の質問に答えると、その製品の環境負荷が弾き出される仕組み。右の画面は、生地にモンゴルのカシミア、裏地に中国のシルク、ボタンに中国のプラスチックを使って、欧州でジャケットを生産した場合の環境負荷を示している
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 このソフトは消費者もダウンロードできます。最近の若者は持続可能性に高い関心を持っています。ブティックで製品購入時に、原材料や生産地などのトレーサビリティ情報を質問してくるケースが増えました。2000年以降に成人したミレニアム世代の若者に顕著です。

環境損益計算書の手法を広めたい

昨年、企業活動が「自然資本」に与える影響と依存度を評価する手順を示した「自然資本プロトコル」がWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)を含む企業イニシアティブによって発表されました。ケリングの環境損益計算書の手法は、この自然資本プロトコルとどのように関係しますか。環境損益計算書はケリングだけが採用する独自の会計報告なのか、それとも自然資本プロトコロの中で標準化されていく開示方法になるのでしょうか。

自然資本プロトコルの日本語版
自然資本プロトコルの日本語版
企業が自然資本に与える負荷と受け取る便益を測定し、その結果を経営の意思決定プロセスに組み込む手順を示した標準化手法が「自然資本プロトコル」である。WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)をはじめとする世界の250の企業や団体が参加するイニシアティブ「自然資本連合」が2016年に策定した。今年2月にはコンサベーション・インターナショナル・ジャパンがその日本語版を発表した

ダヴー:WBCSDをはじめ200以上の企業や団体が自然資本プロトコルに賛同しています。同プロトコルの基準作りに、当社の環境損益計算書の手法も取り入れられました。自然資本プロトコルは測定の手順を示したものであり、測定方法は各社が選べるようになっていますが、ぜひ様々な企業に当社の手法を活用してもらいたいです。当社は手法を公開していますので、アパレル業界だけでなく、多くの企業にこの方法論が広がってほしいですね。

 また、当社は手法の開示だけではなく、環境損益計算書の結果も開示しています。持続可能性の実現にとってこうした透明性は重要だと考えています。

ケリングは、サステナビリティを経営のなかでどのように位置づけていますか。

ダヴー:サステナビリティは経営の鍵です。当社の高級ブランドビジネスは流行の先端をいくものですから、消費者に対して特別な責任があります。持続可能性は「選択肢の1つ」ではなく、「必要不可欠」なものです。

 2015年に打ち出したサステナビリティ新戦略では、地球環境への配慮に加えて、コラボレーションと創造性を柱としました。社内外の人々とのコラボレーションがいっそう重要になっています。全職種で男女差別をなくし、ワークライフバランスを重視し、最高の雇用主になることを目指しています。職人の技術やコミュニティを支援し、米国、英国、中国では大学生向けの訓練プログラムを実施しています。

 環境や社会の価値観を変えるパラダイムシフトが必要であり、それを支えるのが創造性です。適応力のあるレジリエントなビジネスモデルにしなければならないと考えています。