2025年までに環境負荷を40%削減

環境損益計算書を作成して何が分かりましたか。それを経営判断に生かした例があれば教えてください。

ダヴー:どんな種類の環境負荷がサプライチェーンのどの段階で大きいか深刻度を把握でき、対策を講じられるようになりました。2015年の環境損益計算書を見ると、サプライチェーン全体の環境コストが総額8億1120万ユーロ。内訳をみると本社でのコストはわずか7%で、残り93%はサプライチェーンで発生しています。特に3次と4次のサプライヤーが大きいことが分かりました。この事実は私たちの意識を一変させました。環境への負荷の少ないオーガニックコットンを積極的に使用することや、重金属を使用しない革なめしなど製造過程での技術の向上などに力を注ぐようになりました。

 当社は2015年にサステナビリティの新戦略を打ち出しました。売上高(2015年には105億ユーロ)に対する環境負荷(同8億1120万ユーロ)の割合を、2025年までに40%削減し、サプライチェーン全体における温室効果ガスを50%削減するという野心的な目標を立てました。

売上高と環境負荷の推移
売上高と環境負荷の推移
売上高は毎年増加している。売上高に対する環境負荷はこの3年間で減少した
出所:ケリングの環境損益計算書を基に日経エコロジー編集部が作成

 環境負荷の40%削減のうち20%はパイロットプロジェクトで削減可能であり、残り20%は革新的なイノベーションで削減する方針です。
 現在パイロットプロジェクトで進めているのが、(環境や人権に配慮した)エシカルな金や、先ほどお話ししたオーガニックコットンの使用です。金の採掘現場では環境負荷や労働者を劣悪な条件で働かせる社会的リスクがあります。環境や社会に配慮したフェアトレードの金を調達することでリスクを低減できます。オーガニックコットンは化学薬品や殺虫剤を使わないため、環境負荷が小さく、労働者の健康リスクも減らせます。

 また、グッチは高級ブランド業界で初めて、重金属のクロムを使わない革なめし製法を開発し、水とエネルギー使用量を削減しています。

 残り20%はイノベーションで達成します。私たちは革新的なイノベーションによって、社会を変えるパラダイムシフトを起こそうと考えています。例えば素材革命です。生地ではなく繊維そのものから変えていこうと考えています。現在、キノコの幹細胞から革を作る技術を開発中です。新しい素材や新しい製造プロセスを開発するため、素材イノベーション研究所も設立しました。

原材料別に見た環境負荷と使用量
原材料別に見た環境負荷と使用量
原材料によって環境負荷は異なる。定量化によって、デザインする際に負荷を考慮して原材料を選べるようになった。環境負荷が大きく、使用量も多いのが革である。使用量は少ないのに環境負荷が大きい原材料には、金属や動物繊維がある
出所:ケリングの環境損益計算書を基に日経エコロジー編集部が作成
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サプライチェーンの負荷を削減するためには、サプライヤーの管理も重要になります。

ダヴー:環境面だけでなく人権配慮など社会面にも注意を払わなければなりません。私たちはサプライヤーが満たすべき環境や安全衛生、社会に関する行動規範と基準を作っていて、順守を誓約する契約をサプライヤーと結んでいます。2500社以上の主要サプライヤーの監査も実施しています。大半が職人を抱えるイタリアを中心とした欧州の小規模企業です。行動規範を順守していない場合は改善を指導し、キャパシティ・ビルディング(能力構築)も支援しています。

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