第2は、会社側が腐敗行為を放置し続ければ、問題が表面化した時、企業内コンプライアンス担当者などの責任が厳しく問われるということです。多くの企業は「経営者は知らなかった」というスタンスを堅持すれば、経営者の善管注意義務違反が問われることはあっても、刑事責任まで追及されることはないと考えているのではないでしょうか。

 しかし、問題の存在を知っているコンプライアンスや法務の担当者は、実行者とともに刑事責任を問われる可能性が高くなります。特に最近では、米司法省も、企業と起訴猶予合意などを結ぶ際、会社幹部の刑事訴追に必要な証拠の提供を求めるようになっていますので、「コンプライアンス担当者が知らなかった」などと主張することはまずもってできない状況となっています。

 ですから、スロウィク氏は、勤続19年の会社を「キータム訴訟(内部告発奨励プログラム)」という形で訴えるしかなかったんじゃないでしょうか。彼はオリンパスを告発したことで、今回、報奨金5110万ドルを受領することになりましたが、彼が内部告発という最終手段に訴えた最大の理由は、報奨金の受領よりも、むしろ刑事訴追の回避にあったと私は考えています。

腐敗こそすべての問題の根源

規制が厳しくなったのは最近ですか。

 2008年以降に摘発件数がものすごく増えています。というのも、世界が直面している問題の核に腐敗があるという認識が広がっているからです。立派な環境規制があっても執行がゆるゆるになってしまうのは裏金をもらっている役人がいるからです。貧困の問題もそうです。役人の搾取が貧富の差を大きくし、貧しくて食べていけない若者がボコ・ハラムやイスラム国などの過激派に加 わってしまう。特権階級だけが豊かになり、貧しい人が残される社会はものすごく不安定になります。企業が賄賂を支払えば、それに加担することになってしまいます。人権侵害や環境破壊、労働問題などに間接的に関わってしまうのです。

現実問題として、新興国で袖の下なしにビジネスができるのですか。

 もちろん不正な意図がある場合は摘発の対象になります。しかし、どうしても支払わざるを得ないケースもあるでしょう。例えば、袖の下を渡さなければ税関を通る際に何日も足止めを食ったり、工場建設の認可を得るための手続きを依頼してもたらい回しにされたりすることがあります。本来は受けられるべき公正なサービスを受けられない場合に仕方なく提供する少額の支払いなどを「ファシリテーション・ペイメント」と呼び、FCPAは支払いを認めています。

 英国の贈賄防止法(UKBA)では認めていませんが、執行のガイドラインがあり、企業がきちんとした方針をつくり、それに沿って手続きを踏み現地社員が支払った場合には起訴はしないとしています。

 日本の不正競争防止法にはこういった明確な指針がないために、多くの日本企業は外国公務員への利益供与を一切禁止するルールをつくり、実態として現地社員任せにする体制になっています。これでは何かあった場合に社員を守ることはできません。時間はかかりますが、トップが正面から実態と向き合い、腐敗リスクに対応するための体制を築くことが重要です。

(日経エコロジー2015年8月号の記事を加筆・編集して掲載しました)