パナソニックは2月24日、戸建て住宅での宅配ボックスの導入効果を発表した。現在、福井県あわら市で実施している宅配ボックスの実証実験の中間報告である。日中、家を留守にしがちな共働きの106世帯に同社の戸建て住宅用宅配ボックス「COMBO(コンボ)」を設置し、再配達の削減効果を調べた。
昨年12月の1カ月間に対象家庭へ荷物を配達した回数は761回。そのうち、1回目の配達で受け取ったのは405回(全体の53%)、宅配ボックスで受け取ったのは299回(同39%)、再配達で受け取ったのは57回(同8%)だった。宅配ボックスの設置前は再配達が全体の49%あった。それが8%に減ったのだから相当な効果といえる。
福井県は、夫婦がいる世帯に占める共働き世帯の比率が56.1%(2010年国勢調査)と全国で最も高い。あわら市の共働き率は59.6%(同)で、それよりもさらに高い。夫婦がともに仕事で家を空け、1回の配達で荷物を受け取れない状況が発生しやすい町といえ、共働き率がより低い他の地域であれば、宅配ボックスの設置によって再配達率を8%より低く抑えられる可能性がある。
宅配業界では今、車の運転手不足が深刻になっており、ネット通販の拡大などによる荷物の急激な増加に対応しきれなくなりつつある。宅配便の取扱個数は2015年度に約37億個になり、5年間で約5億個も増えている。
業界最大手のヤマト運輸は、今年の春闘で労働組合が会社側に荷物の引き受け量の抑制を求めた。現在、配達時間指定の見直しなどを検討中だ。
そうした中で、再配達は宅配業者の負担を増やす大きな要因になっている。再配達をするために運転手の労働時間は年間約1.8億時間も増え、約9万人に相当する労働力が奪われているという。再配達になれば車を走らせる回数も増える。これに伴うCO2排出量は年間約42万tに上り、環境問題としても大きな課題だ。今後、再配達に追加料金がかかる可能性もある。
ヤマト運輸は、昨年5月に仏ネオポストグループと合弁会社を設立し、駅などに宅配ロッカーを設置し始めた。複数の宅配業者が利用できるオープン型で、2022年までに5000カ所以上に導入することを目指している。顧客の利便性向上の一環で、再配達防止の効果が期待できるが、まだ十分とはいえない。
福井県あわら市の戸建て住宅に設置された宅配ボックス
再配達時のCO2を6割削減
今回の実証実験では、再配達の削減により、宅配業者の労働時間が月間約65.8時間、再配達に伴うCO2排出量が同約137.5kg減る効果があると試算する。パナソニックによると、日本のすべての戸建て住宅に宅配ボックスを設置した場合、年間25万t相当のCO2を削減できるという。再配達に伴うCO2排出量は約42万tなので、単純に計算すると宅配ボックスの設置により約6割減らせることになる。
深刻な人手不足の解消もさることながら、CO2削減への要請は強まる一方だ。日本政府はパリ協定の下、物流部門のCO2排出量を2030年度に2013年度比約3割削減する目標を掲げている。宅配ボックスは、目標達成に大きく貢献できる可能性がある。
だが、新築のマンションでは当たり前になってきたものの、戸建て住宅での普及率は1%に満たないといわれる。要因は認知度の低さと導入コストにある。
戸建て住宅用宅配ボックスを20年以上前から販売しているパナソニックも攻め手を欠いていた。今回の実証実験の成果をもって営業を強化する方針だ。宅配ボックスのメリットを数字で具体的に示せるようになり、訴求効果は大きいとみる。
3月6日には、アパート向けや戸建て住宅向けの新製品を発表する予定である。品揃えを拡充し、需要を開拓する。
パナソニックの戸建て住宅用宅配ボックスの価格は、大きさや形の違いによって6万~9万円程度する。管理費や共益費として宅配ボックスの使用料を支払っているマンションに比べて、戸建て住宅に住んでいる場合は導入の負担を感じる人が少なくないだろう。
あわら市での実証実験の結果、温暖化防止や共働き支援の効果が認められれば、国や自治体が宅配ボックスの購入に補助金を出すことも考えられる。購入者のコスト負担が軽減され、普及の後押しになる。
宅配ボックス標準搭載の住宅地が登場
これまでほとんど普及していない戸建て住宅向けの宅配ボックス市場は、今後、拡大が期待できる。ネット通販を利用する消費者が増える中、購入した商品の受け取りに不満を感じている人は少なくないからだ。
普及の兆しも見え始めている。まだ絶対数こそ少ないものの、パナソニックの2016年度の販売個数は前年度比2倍を見込む。
大和ハウス工業は2月11日、埼玉県越谷市の分譲住宅地で宅配ボックス付きの戸建て住宅を販売開始した。住宅用設備などの開発を手がけるナスタ(東京都中央区)が開発した宅配ボックスを、「セキュレアシティ レイクタウン美来の杜」の全145棟に標準で搭載する。ヤマト運輸のサービスを利用して、宅配ボックスに入れた荷物を送ることも可能である。
今後、東京都西東京市のひばりが丘でも78棟の戸建て住宅すべてに宅配ボックスを導入する予定だ。
大和ハウス工業は、埼玉県越谷市の分譲住宅地で全棟に宅配ボックスを標準搭載
パナソニックが実施中の実証実験で、宅配ボックスを設置しても再配達になったケースは、「宅配業者が宅配ボックスに入れてくれなかった」「宅配ボックスに既に荷物が入っていた」「荷物が冷凍・冷蔵商品だった」「荷物が大き過ぎた」といった理由が多かったという。冷凍・冷蔵商品や大きい荷物への対応には商品開発が必要だが、メーカーはニーズやコストとの見合いで判断することになるだろう。
パナソニックエコソリューションズ社ハウジングシステム事業部外廻りシステムビジネスユニット外廻り設備事業担当の中島裕章・統括主幹は、「宅配業者に宅配ボックスを認知してもらえるよう周知徹底していくことが課題」と話す。
こうした課題を解決し、宅配ボックスを広く普及させられれば、宅配業界の人手不足と地球温暖化問題の解決に大きく貢献できるかもしれない。
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