ESG横並びは無理がある

企業でESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みが求められています。ガバナンスはどういう位置付けになりますか。

牛島:これまでガバナンス改革というと、投資家に向けた金儲けの取り組みというイメージが強かったかもしれません。もちろんこれも1つの側面ですが、企業は社会の「公器」です。ESGというキーワードが出てきたことは歓迎すべきで、日本企業はこれをきっかけにガバナンス改革に目を向けるべきです。

内藤:ただ、ESGの3つを横並びで議論するのは無理があると思います。E(環境)とS(社会)は世の中から預かる資本で、G(ガバナンス)は、預かったものを使って価値を生み出す主体です。それぞれ個別に取り組むのではなく、EとSを伸ばすためのガバナンス改革という意識が必要です。

牛島:大げさかもしれませんが、1600年頃から続いてきた株式会社制度が、今こそ試されているのだと思います。宗教や政治で解決できない社会課題を企業の力で解決できるかどうか。ESGというキーワードにはこうしたメッセージが込められているように思えます。

内藤琢磨(ないとう・たくま)氏
1964年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、大手生命保険会社、朝日アーサーアンダーセン・ビジネスコンサルティングを経て、2002年に野村総合研究所に入社。企業の人事戦略やコーポレートガバナンスのコンサルティングを担当する。企業統合、会社分割、グループ経営などに関する人事戦略支援や組織風土改革などが専門領域

内藤:取締役会は、経営の様々な意思決定をする場です。ただ、目先の問題に目が向きがちで、企業が環境や社会とどう関わっていくかという長期視点の議論がおろそかになっています。

牛島:企業が公開するESG情報は、その企業がこの先どう在りたいかを示すものです。未来を示せない企業は、投資家のみならず社員にも振り向いてもらえません。未来を語れる経営者を次々と輩出し続けられるかが、試されています。

ガバナンス改革は、何から手を付けるべきでしょうか。

牛島:取締役会の改革だと思います。なかでも重要なのが社外取締役でしょう。欧米企業の取締役会のメンバーは、過半数が経営の執行に関わっていない独立社外取締役です。一方、日本企業の取締役は、社長をはじめ多くが社内で昇進したメンバーが占めています。すべての日本企業が欧米型のガバナンスに向くとは思いません。そこで重要となるのが、社外取締役の役割です。

 東芝は、海外子会社の大きな不正を見抜けませんでした。その大きな原因が、叩き上げ経営者の過信だと思います。同社はこの事件をきっかけに、取締役の過半数を独立社外取締役にしました。日本型コーポレートガバナンスの改革例として注目しています。

内藤:社外取締役の意思決定や管理・監督の質を高めるべきというのは賛成です。ただ、日本には、こうした任に耐え得る社外取締役が足りていません。この解決には時間がかかるかもしれません。

 現実的には、内部出身の取締役の選び方を考え直すべきだと思います。ビジネスに長けて社内競争を勝ち抜いた人だけが取締役になるというシステムから脱却しなければいけません。ESGの長期的な視点を持った人など、多様な力を結集するという意識が必要です。同じ人たちが集まると、常に同じような結論しか出せません。そうなると、思い切った経営判断やイノベーションを起こす「攻めの経営」はできません。