アマゾン川を象徴する希少な動物、アマゾンマナティー。IUCNに「危急種」と指定され、ブラジルでは保護の対象になっているものの、その生態は謎に包まれている。「こんなに魅力的な動物は他にいない」とアマゾンマナティーに惚れ込み、2007年からアマゾンに通い続けて研究と保全活動を行う菊池夢美さんの研究フィールドに行ってみた!

(文・写真=川端裕人)

 ぼくが、マナウス郊外の国立アマゾン研究所(INPA)で菊池夢美さんの研究論文の話を伺ったのは、水生哺乳類研究室のメンバーが使っている研究棟だった。研究室のリーダーのヴェラ・シルバ博士は自室を、マナティー・チームのディオゴ・ソウザは若手用の部屋にデスクをそれぞれ持っている。菊池さんの席は、若手用の部屋でディオゴの隣だ。

 熱心に話している途中、ディオゴが「そろそろ授乳の時間だ」と教えてくれたので、我々は建物を出てすぐのところにあるマナティー水槽に向かった。表からも見える水族館的な大水槽ではなく、裏側にある非公開エリア。ここには、地面に直置きしたプラスチック水槽がたくさんあって、それぞれにやはりアマゾンマナティーが入れられていた。

「かわいすぎます」

 飼育員のハイムンドさんが、とある小さめの水槽の前で手招いていた。

 その中には、体長70~80センチくらいと思われる、とても小さな乳児が2頭泳いでいた。

 簡単なポルトガル語と身振りで、すぐにわかった。

「ムミ、この子にあげてみるか」と。

 ハイムンドさんが水面をたたくと、小さなマナティーがやってきた。顔を持って水面に出し、ほ乳瓶のちくびを口にあてがった。そこで、菊池さんと役割交替。

 菊池さんが、いきなり、デレた。

「うわあ、かわいいですよぉ。かわいい! この胸びれ見てください。ぎゅって、壁にくっつけて……かわいい、かわいすぎますよ」

 表情も、柔和というか、トロンとしたふうになって、湖のフィールドで見せていた「仕事人」としての鋭い表情の女性とは、別人のようだ。

「打合せとか、解析とかやってると、ここにいても何週間もマナティーと接する機会がないこともあるんですよね」と言う。

 ぼくは夢中でカメラのシャッターを切った。

 菊池さんが、慈しみの表情で、アマゾンマナティーの幼子に、ミルクを与えている姿は一葉の絵として、非常に美しいものだった。