「かなり鋭敏な感覚器官で、これで食べ物を区別したり、何か気になるものがあったら触って調べたりするんです。特にフロリダマナティーは好奇心がおうせいで、なにか珍しいものがあるとヒゲで触って確かめたりするので、マナティーキスって言われてます。人間がフロリダマナティーのいるところに入っていくと、キスされるみたいに確かめられることがあるんですよ」

 そんなキスなら受けてみたいものだ。

 しかし、正面から見ると、顔つきはどちらかというと間の抜けた感じは否めない。陸に上げられて為す術もなし! という状況が輪をかけているかもしれない。

 この風貌は何に似ているだろうか。

 まず、犬。本当に、犬っぽいと思う。特に、鼻の頭の呼吸口をパカっと開けた瞬間など、犬顔度が上がると思うのだがどうだろうか。

犬っぽい?

 また、小さくつぶらな目もたまらない。これも犬っぽいのだが、まばたきの仕方が独特で、その点ではむしろ、異星人的。人間にもイルカにも、もちろん犬にも、まぶたがあって、上下からパチリと閉める。しかし、マナティーの場合は、「上下」のまぶたがない。目を閉じようと思ったら、まず、黒目が後側に寄って、白く厚い膜(は虫類などの強膜みたいなもの?)が出てくると同時に、目のまわりの筋肉全体が括約筋的に、あるいはカメラの絞りみたいにきゅっと絞られる。ここだけ見ていると、ちょっと「別の生き物」というふうだ。

 しかし! 彼等が、口を伸ばす動作をしたとたん、印象が変わる。犬だとか、「別の生き物」だとか、そういった予断を吹き飛ばすような表情があらわれる。

一番近いのはゾウ

「系統的には、ゾウとか、ハイラックスに近いです。鯨類とは全然別ですね。よくクジラの親戚なんですかって言われるんですけど、そうじゃなくて、一番近いのはゾウですよって説明します。マナティーの鼻って、ゾウの鼻を短くしたみたいなかんじでしょう」

 マナティーの口をやや下から見ると、上あごには縦に割れている部分がある。ものを食べる時には、上あごと下あごを使った上下の動きだけでなく、縦の亀裂の両側にある特に太い感覚毛がはえた部分を器用に使う。両側からむにーっとせり出してきて、かき込むような動作になる時があって、一瞬、指かと錯覚するほどだ。実際のところは、口唇部全体を使って、囲い込んで口に流し込むみたいなかんじ。いずれにしても、感覚毛のびっしり生えた「手のかわりみたいな鼻」という意味で、ますますゾウっぽい。

上あごは縦に割れていて、エサをかき込むときには、一瞬、指があるのかと錯覚するような仕草を見せる。
アマゾンマナティーの食事の様子。国立アマゾン研究所の水槽にて。 (撮影:川端裕人)